取組概要
本研究テーマの究極的な目的は、私たち人間がいかにことばを話し、またそれを聞いているかをモデル化することである。人間の音声生成や知覚は、私たちが生きていく上で重要な音声コミュニケーションの大事な側面になっている。そしてその過程は言語学、心理学、脳神経科学、生理学、音声言語医学、音響学など様々な分野にまたがっており、その研究も学際的となる。本研究テーマでは特に、人間の音声生成過程を物理模型を用いて実現すること、そしてその模型から発せられる音や人間の生の音声を私たちがどのように聞いているかを調べることで音声知覚の機構を解明しようとしている。
最新の成果の一例として、音声を生成する模型のモデルでは、音声生成に関わる喉から口唇までの声道、つまり「声の通り道」をモデル化している。その際、人間が音声を生成する上で動かす部位を軟らかい素材で実現することで、その形状を手、あるいはコンピュータで制御することが可能となり、それによって動的に音声を作れるよう工夫されている。このような精巧な声道模型は世界でも他にほとんど類がなく、国際会議などでも常に注目を集めている。
成果
このようなモデルには様々な目的に応じてバリエーションが用意されており、母音を生成する声道模型については、国内外の科学館・博物館での展示の他、科学教室等にも使われている。限られた母音と子音の両方を生成することができる別のモデルでは、「アバ」や「アマ」といった単語を生成することができ、聞き手の母語の違いがどのようにそれらの発話を知覚するかの研究に応用された。また日本語にはない外国語の母音や子音(例えば英語の/r/や/l/)などを発する模型については、外国語の発音教育のためにも応用されている(その知見は、子ども向け英語教育テレビ番組にも生かされている)。
このように本研究テーマの成果は、今後、さらに外国語の音声教育に応用されたり、また、音声言語医学の分野では言語治療の現場において、発音のリハビリテーション等の臨床応用にも期待されている。また音を発し、音を認識するという音声ロボットが今後ますます発展することで研究されることで工学応用のみならず、人間の音声コミュニケーションの機構の解明にもつながってくるものと期待されている。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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