取組概要
ロボットが人とかかわり合うためには、ただの物理的なインタラクションだけでなく、そこに感性が求められるようになってきた。すなわち、ロボットが人の指示を的確に聞くためのインタフェースに加えて、相手の気持ちの理解や融和、コミュニケーション自体を楽しむなど心理的な交流も必要となりつつある。ロボットは、擬似的な身体要素をもとに人とのインタラクションを行うが、ロボットには、ユーザに馴染みやすく人に近いコミュニケーション手段・インタフェースが求められる。本研究では、コミュニケーションの媒体としてロボットの感情に着目し、ロボットの感情モデルの研究開発を進めている。
成果
ロボットが人を理解するのではなく、人がロボットのことを理解することによって会話を成立させたり、心理的交流を実現できるのではないかと着想し、人に世話される赤ちゃん型ロボットBabyloidを開発した。新生児には、(1)一方的なインタラクションが許される(周知の事実としてそのように認知されている)、(2)何もできないという世話される対象の象徴である、(3)表情や音声による多様な情報発信が可能である、といった特徴がある。人がBabyloidの世話をしたいという気持ちを抱くために、Babyloidは、笑ったり喜んだりするだけではなく、泣いたり機嫌が悪くなるなどの心理的・生理的状態を表出する。このように、Babyloidは人の世話をしたいという気持ちによってインタラクションを実現するロボットである。Babyloidと共生することによって、高齢者はロボットの世話という役割を持ち、生きがい感や癒やしを感じられる。認知レベルに問題のない施設入居者および在宅高齢者を対象に、施設入居者に対しては2週間、在宅高齢者に対しては1ヶ月間の介入実験を行った。その結果、抑うつ度が軽減される可能性が示唆された。このような効果を持つBabyloidは、現在、福祉ロボットの一つとして市販されている。
認知レベルに衰えのない高齢者だけではなく、認知症患者の精神性・社会性の改善といった効果が期待できる。また、出産前の妊婦に対する育児疑似体験ロボットとして用いることや、小学生などの子どもたちの徳育への利用などが考えられる。以上のように、新生児そのものとしてだけではなく、新生児のもつ「心を安定させる効果」「世話を要求することによる人への心理効果」にも注目すれば様々な応用が考えられる。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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