取組概要
超高齢社会の日本においては加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)や骨粗鬆症等の運動器障害によるロコモーティブシンドローム、糖尿病・高血圧を発症するメタボリックシンドロームに対する予防と改善が健康寿命の延伸をめざす上で喫緊の課題である。これらのシンドロームを引き起こす身体諸機能が宇宙環境滞在などの微小重力環境下で助長されることに着目し、宇宙空間での身体諸機能の適応を追求する「宇宙生体医工学」を応用し、地球上の歩行困難者や宇宙飛行士に対して、新規運動療法やリハビリテーション方策・機器の開発、実用化することを目的とする。
本研究では、生理学、生化学、神経科学の分野から、抗重力筋活動が神経、筋、脂肪、脳に及ぼす影響を解明するとともに、それらの知見を工学と有機的に結合することで、工学分野の観点からリハビリテーションのための抗重力筋活動促進装置を開発する点が特徴的である。また、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)、イタリア宇宙機関(ISA)をはじめとする海外の宇宙研究機関との共同研究による、3G環境で飼育したマウスの生体反応の実験や、アメリカ航空宇宙局(NASA)ジョンソンスペースセンター内のARGOS(重力免荷能動制御システム)を利用した実験計画など、ユニークなアプローチを展開している。
成果
反重力トレッドミルを用いて微小重力環境での歩行を模擬し、歩行運動の計測実験と筋骨格モデルを用いたシミュレーションの結果、免荷割合が増加するほど、緩やかな脚運びのつま先立ち歩行になるため下腿後面の筋肉の活動量が小さくなることが判明した。そこで従来のトレッドミルと異なり、使用者自身がベルトを蹴り出すことで歩行または走行する負荷制御型の自走式トレッドミルを開発した。このトレッドミルは、人が与える進行方向の力情報を、内蔵されたフォースプレートからフィードバックすることにより、発生する反力に対応した負荷を与えることができる。この負荷制御型トレッドミルと従来の定速トレッドミルを比較し、蹴り出し時の足関節モーメントと下肢後面の筋肉の筋活動量が増加することを明らかとした。
地球上の歩行困難者等への新規運動処方、リハビリテーションデバイス、予防法等の実用化に繋げ、超高齢社会における「QOLの低下を伴わない健康寿命の延伸」による社会貢献を目指すとともに宇宙環境での健康維持課題に挑戦する。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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