校章などサムネイル
実施地域アイコン

実施地域

東京都

取組内容アイコン

取組内容

その他研究

実施体制アイコン

実施体制

ゼミ

連携状況アイコン

連携状況

他大学

法政大学

準絶滅危惧種コアホウドリと大海を旅する相利共生のウモウダニ、日本近海で新記録と再発見、絶滅が危惧される ~世界的に見ても報告が少ないトゲトゲアホウドリウモウダニとアホウドリウモウダニ

2023年1月31日

取組概要

 法政大学の島野 智之教授、東邦大学の脇 司准教授、北海道大学の江田 真毅教授の研究グループが、コアホウドリの羽を掃除し宿主と共生関係にある希少なダニ2種を、日本近海産の羽標本をもとに確認しました。
 コアホウドリPhoebastria immutabilis (Rothschild, 1893) は大型の海鳥で、19世紀末以降の世界的な乱獲により個体数が減少しました。現在の繁殖地はグアダルーペ島と周辺の島(メキシコ)、ハワイ諸島(アメリカ)、小笠原地域の聟島・鳥島に限られており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに準絶滅危惧(NT)で掲載されています。日本海域では、聟島・鳥島で毎年20組の繁殖ペアが報告されているのみで、環境省と東京都島嶼部のレッドリストでそれぞれ絶滅危惧IB類(EN)と絶滅危惧IA類(CR)に指定されています。聟島・鳥島で生まれ育った個体数は少ないため、日本近海を飛ぶ個体の多くはハワイ諸島から長い距離を飛んで来たものと推定されます。

 ウモウダニ2種は、コアホウドリとともに繁殖地の島々からベーリング海やアラスカ湾、アリューシャン列島周辺など、広く北太平洋を旅していると考えられます。アホウドリ科鳥類は繁殖期以外陸上に降りません。このため、ウモウダニが鳥から鳥に移るタイミングは繁殖地に限られており、つがいや親子間で伝わっていると考えられます。

 ウモウダニの仲間は鳥の羽に共生するダニで、鳥を傷つけることはなく、羽の古い油や、カビや花粉などのゴミを食べて生活していると考えられています。ウモウダニには様々な種がいますが、特定の鳥の種やグループにしか着かないものが多いことが知られています。このため、宿主となる鳥種の個体数が大幅に減ると、それに着くウモウダニ種も同様に絶滅の危機を迎えます。例えばトキウモウダニCompressalges nipponiae Dubinin, 1950はトキNipponia nippon (Temminck, 1835) にしか着きませんが、宿主トキの極東個体群(日本、韓国、ロシア南東部、中国東部)の消滅に伴い絶滅したと考えられています。

 日本近海には様々な海鳥がおり、20世紀半ばにはそれらのウモウダニが記録されてきました。しかしそれ以降は調査がほぼ手つかずで、現在のダニの感染状況は全く不明です。日本近海にはアホウドリ科鳥類のような希少な海鳥がいます。それらのウモウダニの現状を調査・記録することは、ウモウダニも含めた鳥の保全を考えるうえで重要な基礎情報になります。

 研究グループは、2018年に日本近海で採集されたコアホウドリ(水産資源研究所提供、ハワイ諸島産と推定)の羽のウモウダニを調べたところ、2種のウモウダニを見つけました。その1種であるトゲトゲアホウドリウモウダニEchinacarus petaliferus (Trouessart, 1898) は日本近海から初めて確認されましたが、本ダニ種は採集個体数が非常に少なく個体群の存続が心配されました。

 もう1種のアホウドリウモウダニDiomedacarus gigas (Trouessart, 1895) は、日本近海から52年ぶりにその存在が確認されました。このダニは、これまで古い文献に基づく図や記録しか存在せず他のダニと見分けることが難しかったため、形態を詳細に記録することで種判別の基準を確立しました。これにより、今後似たダニが発見されたときに同種かどうか判別できます。さらに、アホウドリウモウダニの遺伝学的集団構造を調べたところ、このウモウダニの7つのハプロタイプのうち6つが宿主個体ごとに特有のものだったことから、このダニの遺伝的多様性を維持するには宿主個体群を広く保全することが望ましいと考えられました。

成果

 ウモウダニの絶滅は、その宿主鳥種の羽を掃除する共生生物が未来永劫失われてしまうことを意味します。ウモウダニの個体群が安定して存続するためには、まとまった個体数の宿主個体群が必要です。このため、宿主個体数が減少する場合、宿主よりもウモウダニの方が早く絶滅リスクにさらされると考えられます。ウモウダニをはじめとした共生生物の種を確定してその現状を把握し、遺伝情報などから保全につながるヒントを見つけていくことは、宿主が絶滅リスクの高いアホウドリ科鳥類の場合ではとても重要です。今回得られたダニ2種は世界的に見ても報告が少ないため、今回確立された種判別方法を活用しながら、最新のダニ感染状況を把握することが期待されます。

関連リンク

https://www.hosei.ac.jp/info/article-20230123152032/