取組概要
本学家政学部食物学科では、2024年4月20日(土)に本学七十年館の調理大教室にて、エームサービス株式会社のフェローである石井幸雄(いしいゆきお)シェフによる料理教室を行いました。エームサービス株式会社(以下、エームサービス)は社員食堂や病院、スポーツ施設など幅広いフードサービス事業を展開する大手給食会社であり、石井シェフは国際交流の場でVIPに対するフードマネージメントを多数経験されている同社のトップシェフです。大型国際スポーツ大会での総料理責任者を務めたこともあり、同社の日暮昭道シェフ、佐藤二郎シェフと共に、今回の料理教室にてご指導いただきました。
この料理教室は8月に第2弾が予定されている一連のワークショップの第1弾。ワークショップを通して、学生はエームサービスの方々と意見交換をしながらメニューを考案し、エームサービスの全国の事業所50か所以上で提供することを目指しています。
なお本ワークショップは、昨年度にエームサービス取締役である紅林利弥氏に本学で講演いただいたことを契機に、エームサービスと本学食物学科の食経営管理学研究室(松月弘恵教授)および栄養教育・臨床栄養学研究室(亀山詞子講師)との共催で実現しました。
【エームサービスへ就職した先輩との座談会】
料理教室の開催に伴って、本学食物学科を卒業してエームサービスで活躍する先輩4名との座談会を行い、在学生からの質問に温かく回答くださいました。先輩からの声をご紹介します。
——学生時代にやっておいて良かったことは?
松尾真優さん(2024年卒・総合職 / OJT期間中)
目白祭(本学学園祭)のときに食物学科の有志で行った「食と健康とSDGs」と題した展示企画のリーダーを務めたこと。就職活動の面接のときに自信を持って話せました。
北村環さん(2023年卒・専門職 / 高齢者福祉施設で給食の運営管理を担当)
学生時代の調理実習で学んだことの重要さに、現場に出てから気づくことが多かったです。日本女子大学ではしっかり技術が身につくまで、先生方が温かく指導してくださるので、目の前の授業をまずは頑張ってください!
——管理栄養士に関心がある高校生へのメッセージ
池田夏希さん(2023年卒・専門職 / 社員食堂で給食の運営管理やメニュー開発を担当)
私は松月先生の授業で学んだことを生かしつつ、昨年はクリスマスのスイーツとしてイチゴのミルフィーユのメニュー開発をしました。管理栄養士は、誰もが生きていく上で必要な「食」に携わることができる、誇りを持てる仕事だと思います。
西地菜緒さん(2021年卒・専門職 / 大学病院の給食運営管理を担当)
私は「手に職をつけたい」という漠然とした思いで本学食物学科に入学しました。入学してから将来の選択肢がたくさん広がったように感じています。私は「給食って面白い」と在学中に感じていたのを覚えています。管理栄養士になって良かったと思っています!
【講義】 “The Japan Diet”の概要と献立作成の留意点
座談会のあとは、料理教室のための白衣に着替えて、本学の亀山詞子講師による講義を受けました。“The Japan Diet”で推奨される食品と、献立作成のポイントが紹介され、在学生は一言も聞き漏らさないよう熱心にメモを取っていました。
“The Japan Diet”とは、講師の亀山先生が生活習慣栄養部会委員を務める一般社団法人日本動脈硬化学会推奨の動脈硬化予防に役立つ健康的な食様式であり、本ワークショップのテーマです。肉の脂身や動物脂を控え、大豆、魚、野菜、海藻、きのこ、果物、未精製穀類を取り合わせて食べる減塩した日本食パターンの食事ですが、次のような食べ方を満たすものであれば、和風以外の料理も“The Japan Diet”とされています。
1. 肉の脂身、動物脂、鶏卵、清涼飲料や、菓子などの砂糖や果糖を含む加工食品、アルコール飲料を控える
2. 魚、大豆・大豆製品、緑黄色野菜を含めた野菜、海藻・きのこ・こんにゃくを積極的にとる
3. 精製した穀類を減らして未精製穀類や雑穀・麦を増やす
4. 甘味の少ない果物と乳製品を適度にとる
5. 減塩して薄味にする
【料理教室】プロが提案するおいしい“The Japan Diet”
講義のあとは、いよいよ石井シェフによる料理教室がスタート。“The Japan Diet”で推奨される食品(緑黄色野菜、こんにゃく、海藻、果物、青背魚など)を使ったレシピとそのコツを、惜しみなく教えていただきました。今回、教えていただいたメニューは次のとおりです。
“The Japan Diet”の素材を生かした一汁四菜御膳(洋食Ver)①鶏むね肉と豆苗の炒め/②野菜だけのボルシチ/③鰯のオーブン焼き/④茄子の香草焼き、レモン風味/⑤蕪とアンディーブとオレンジのサラダ、クルミ添え
まずは煮込む時間が必要なボルシチから着手。料理教室は学生が3-4人で1グループを作り、その各調理台を石井シェフがマイクを持って回りながら直接指導していただきました。「パンのおいしい切り方」「鰯の臭みのとり方」「レモンの洗い方のコツ」「蕪を生で食べるときのおいしい切り方」など、プロならではの技術を実演しながら教えていただき、そのたびに会場から歓声と拍手が。「他の予定と重なっていたけれど、今日は参加して本当に良かった!」と実習中、学生からはそんな声も聞こえました。
【試食会】感動!ひと工夫でおいしさが格別に
調理開始から2時間ほどで、各調理台で全5品の料理が完成しました。エームサービスからお越しいただいた16名の方々が各調理台に分かれて、それぞれ試食会がスタート。学生は「ボルシチに塩を入れなかったのに、野菜の甘みが出ていておいしい!」「ちょっとした下処理で完成したときの味が全然違うことに驚いた」と話していました。エームサ—ビス取締役の紅林氏には「皆さん、調理の段取りが素晴らしかった」と声をかけていただいていました。
成果
【学生の感想】目から鱗の連続。贅沢な機会でした
ワークショップに参加したのは、家政学部食物学科管理栄養士専攻3年生16名、4年生9名、および食物学専攻4名、家政学研究科食物・栄養学専攻1名の計30名。その中から学生の感想を一部ご紹介します。
(管理栄養士専攻 3年)廃棄を極限まで減らした無駄のない調理が印象的であり、皮や芯などの普段廃棄してしまう部分を使用するだけでなく、じゃがいものつけ汁や蕪から出てくる水分まで使用するのは衝撃的でした。とても贅沢で貴重な経験となりました。
(管理栄養士専攻 3年)プロのシェフに間近で教えていただきながら、「自分たちのやりたいように自由にやっていいよ」と声をかけていただきました。料理の楽しさを改めて感じることができ、さらに学びを深めていきたいと思いました。
(管理栄養士専攻 3年)“The Japan Diet”に対して「和食」のイメージが強かったのですが、大きくイメージが変わりました。初めての調理法をたくさん経験させていただき、自分が献立作成する際にも、今までよりも自由で柔軟な発想ができるようになりたいと感じました。
(食物学専攻 4年)調味料は塩、胡椒のみ、という料理がほとんどであるにも関わらず、こんなにも野菜のうま味や素材で全く違う味、料理になることに驚きました。現在、家庭の調理では簡便性が求められているので、今回のような簡便でかつ健康的な料理をもっと世の中に知ってもらいたいと思いました。
【エームサービスの事業所で学生考案メニューを提供することを目指して】
本ワークショップでは第2弾が2024年8月3日(土)、第3弾が2024年8月31日(土)に予定されており、その後に“The Japan Diet” Weekとしてエームサービスの事業所50か所以上で、学生考案メニューを提供することを目指しています。第2弾は学生考案メニューの試作選考会で、それまでに学生はチームごとに “The Japan Diet”で推奨する食品を使ったメニューを2セット(1セット:主食、主菜、副菜)考案します。その試作選考会でエームサービスの管理栄養士の方々からいただいたアドバイスを踏まえて、第3弾で改めてエームサービスの取締役とメニュー開発チームの専門家の皆様にプレゼンテーション。全国提供できる“The Japan Diet”メニューを学生たちの手で開発することを目指します。
松月教授は料理教室の最後に、卒業生が本学に戻って後輩に指導する、この循環を「ブーメランエデュケーション」と名付けて卒業生の活躍を喜ぶとともに、エームサービスの皆さまへの感謝を述べました。エームサービス取締役の紅林氏は、「ブーメランエデュケーション」の関係性を今後さらに強固にしたいと語るとともに、第2弾ワークショップに向けたメニュー開発について「切磋琢磨して頑張ってください」と学生を激励。石井シェフは今回の料理教室について「私たちも全力で全てをお伝えできたと思います」と述べられました。
参加した学生の皆さんがこの貴重な機会で得たものを生かして、素敵なメニューを考案されることを楽しみにしています。
※日本女子大学は、2025年4月に現在の家政学部食物学科食物学専攻を基とした、食科学部栄養学科(仮称)を開設予定です。