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学習院大学

日本産クワコの染色体スケールのゲノム解読に成功

2025年1月22日

取組概要

<ポイント>
・世界で初めてクワコ(Bombyx mandarina)の染色体スケールのゲノム解読に成功しました。
・日本産のクワコの染色体数(n=27)は、中国や韓国のクワコの染色体数(n=28)よりも1本少ないことが知られていました。日本産クワコでは、第14染色体と第27染色体が融合していることが判明しました。
・今後実験動物としてのクワコの利用を促進するため、ゲノムデータに生物学的な注釈をつけました(アノテーション情報整備)。

<概要>
学習院大学理学部生命科学科の李允求助教、同嶋田透教授、東京大学の木内隆史准教授、基礎生物学研究所の山口勝士主任技術員、同重信秀治教授、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授らの研究グループは、ロングリードシーケンシング技術を用い、日本産クワコの染色体スケールのゲノムアセンブリに成功しました。

このクワコ系統は、1982年に埼玉県坂戸市で捕獲された個体から樹立した系統であり、世界的に見ても珍しい野生蛾類の長期累代による近交系です。また、遺伝子モデルの構築やゲノム編集ツールの適用を見据えたオープンクロマチンアッセイなど、クワコゲノムのアノテーション情報を整備しました。これらの情報は、カイコの家畜化の歴史を解き明かす上で重要な手掛かりとなることが期待されます。

<研究の背景>
野外に生息するBombyx属の昆虫であるクワコは、カイコと最も近縁な種です。クワコとカイコの共通祖先を家畜化した生物がカイコであり、野外に留まり続けた個体群の子孫がクワコです。クワコには染色体数27の個体群と染色体数28の個体群が存在しており、染色体数27の個体群がいつ、どこで生じたのかについては未解明のままです。これまでは、主としてミトコンドリアCOI配列やrDNA配列をもとにした系統解析が行われてきましたが、解析に用いることができる配列長が短いために得られる情報量は少なく、ゲノムスケールでの解析が望ましいとされてきました。クワコの全ゲノム配列は2018年に他グループの手によって初めて公開されましたが、当該アセンブリはコンティグレベルにとどまっており配列とその所属染色体の対応は取れていませんでした。

<研究の内容>
染色体スケールのクワコゲノムアセンブリを構築するため、1982年から実験室内で維持されているクワコ系統をゲノムDNAの供与体にしました。ロングリードシーケンサーでドラフトゲノムアセンブリを作成したのち、Bionano Saphyrシステムを利用してスキャフォールディングを行いました。Saphyrシステムによるoptical genome mappingでも全てのコンティグを染色体に回収させることができなかったため、さらにHi-C seqによるスキャフォールディングを行いました。その結果、配列数27、つまり染色体数と等しい配列数のゲノムアセンブリを構築することに成功しました。このゲノムアセンブリを利用して、カイコとの比較ゲノム解析を行ったところ、クワコでは、カイコでいうところの第14染色体と第27染色体が融合していることが判明しました。

成果

<今後の展開>
今回我々が解析したクワコ系統を含む、日本列島に生息するクワコは、現在調べられている限りにおいては、全て染色体数が27です。大陸に生息するクワコは染色体数27の個体群と染色体数28の個体群が混在しています。それらの個体群のゲノムをやはり染色体スケールで解読することによって、第14染色体と第27染色体がいつ、どこで起きたのか、全てのn=27の個体群で第14染色体と第27染色体の融合が起きているのか、ひいてはクワコの進化の歴史が明らかになるでしょう。

また、NBRPカイコでは、クワコの遺伝子資源の開発のために、クワコの染色体を1本だけ有する染色体置換系統を開発しています。研究チームが整備したクワコゲノムのアノテーション情報は、これらの染色体置換系統を利用する上でも有用であり、置換系統の利用の促進効果が期待されます。

関連リンク

https://www.univ.gakushuin.ac.jp/about/press/30613.html

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