
取組概要
本学 分子生命科学研究所 遺伝情報研究部門の椎村祐樹 助教、松井一真 大学院生、児島将康 客員教授と、岩田想 教授 (京都大学)、増保生郎 博士 (米国サンフォード研究所) らを中心とした国際共同研究チームは、千葉大学、大阪大学、京都工芸繊維大学の研究者らと共同で、がん悪液質治療薬であるアナモレリン (エドルミズ®️) が結合したグレリン受容体 の立体構造を決定しました。
また薬理学解析によって、アナモレリンがグレリン受容体のスーパーアゴニスト (内因性作動物質であるグレリンよりも強力に作用する薬剤) として作用すること、さらに構造情報を活用して一塩基多型が薬剤の効果に影響を与える分子基盤を明らかにしました。
成果
グレリン受容体は、様々な生理作用に関わる重要な分子であり、本研究によって得られた構造情報は、成長ホルモン分泌不全症や摂食障害、心不全治療薬の設計に役立つことが期待されます。また遺伝的多様性による薬効変化を構造情報に基づいて立証した本研究は、個別化医療の実現に向けた重要な知見をとなることが考えられます。
<主な研究の成果>
・がん悪液質治療薬であるアナモレリンと結合状態にあるグレリン受容体-Gqタンパク質複合体の立体構造を初めて決定し、アナモレリンの結合様式を解明。
・リガンドに応じた受容体のユニークな構造変化が、シグナル伝達に多様性をもたらすことを解明。
・構造情報を活用して一塩基多型が薬剤作用に与える要因を特定し、構造情報、ゲノム情報、薬理学プロファイルの統合が、個別化医療の発展に寄与できる可能性を提供。
<今後の展望>
本研究によって、グレリン受容体標的医薬品の設計を促進する、立体構造情報を拡充することができました。さらに、構造情報を活用することで、シグナル伝達の分子基盤や遺伝的多様性の影響を論理的に理解する新たな枠組みを提示しました。これにより、個別化医療における薬剤選択の精度向上が期待され、さまざまな疾患の治療に向けた新たな治療法の基盤を構築することができると考えられます。