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学校法人青葉学園
会社概要

3℃から108℃まで温度を制御できる大気圧プラズマ装置を開発

-皮膚や細胞に熱損傷を与えないプラズマ処理に期待-

学校法人青葉学園

【要点】
○プラズマの温度を3℃から108℃まで制御することができる大気圧プラズマ発生装置を新規に設計・開発した。
○新装置を用いて二酸化炭素、酸素、窒素、アルゴンのプラズマを生成し、温度やガス種が殺菌効果に大きく影響することを明らかにした。
○皮膚や細胞にも適切な温度で、所望のガス種のプラズマを照射できるため、各種材料や生体に熱損傷を与えない安全なプラズマ処理が期待できる。
○ヒーター加熱などでプラズマの温度を上昇させる事で、各種材料の接着性向上などへの応用も期待できる。

【概要】
 東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の沖野晃俊准教授、東京医療保健大学の松村有里子准教授、岩澤篤郎教授らの研究グループは、温度を精密に制御しながらプラズマ(用語1)を低温・大気圧下で発生させる新規装置を設計・開発した。今回開発した装置は、プラズマ化するガスと装置全体の温度を調整する液体が流れる流路を備えているのが特徴である。装置の構造は数値流体解析を用いて設計し、アルミニウム系材料を用いて3D金属プリンタ(用語2)により装置製作を行った。さらに、この装置で二酸化炭素、アルゴン、窒素、酸素をはじめ様々なガスでプラズマを生成できること、ならびにプラズマの温度を3~108℃の範囲でコントロールできることを実証した。また、プラズマの温度やガスの種類を変えると、プラズマ中で生成される活性種(用語3)や殺菌効果が大幅に変わることを明らかにした。
 この研究成果により、大気圧プラズマの応用範囲がさらに広がり、プラズマによる殺菌・ウイルス不活化や表面処理効果が向上する事が期待される。本研究成果は、「Applied Sciences」電子版に2021年12月9日に2報の論文として掲載された。

 

●背景
 分子や原子は、おかれた温度や圧力に応じて固体・液体・気体の三態をとるが、それに加えて極高温や放電下におかれたとき、第4の状態と呼ばれる「プラズマ」となる。電離気体とも呼ばれるプラズマは、原子や分子の電子がはじき出された状態にあり、プラズマ化した気体そのものや、周囲に存在する気体が活性種となっていることがひとつの特徴である。活性種は反応性が非常に高いため、細菌や有害物質の分解、表面処理や半導体製造などの分野で広く使用されてきたが、近年殺菌、ウイルス不活化や手術における止血といった医療利用などにも期待が寄せられている。その際、プラズマを照射する際の熱による損傷が懸念されるが、既存の低温プラズマは温度が40~100℃程度に至り生体への影響が懸念されるため、より低温環境でプラズマを発生させることが求められている。

●研究成果
 本研究では、プラズマの温度を3~108℃にコントロールすることができる、新たなプラズマ発生装置を設計・開発し、黄色ブドウ球菌の殺菌における効果を評価した。装置は金属の3Dプリンタを用いてアルミニウム系素材で製作した。

【装置の設計・開発】
 これまで報告されてきた低温プラズマ発生手法としては、プラズマ化するガスを冷却・加熱して温度を調整する、あるいは放電のために加える電力を抑えるといった手法が採られてきた。しかし、これらの方法だとプラズマ化する際の温度上昇幅の制御が難しい、生成されるプラズマの効果が弱くなる、といったことが課題となる。そこで今回開発した装置では、ガスだけではなく「装置そのものを冷却・加熱」することでプラズマ発生時の温度を精密にコントロールしようと考えた。
 新装置は、プラズマ発生部(図1 放電生成位置)をパイプ(図1 青色箇所)が螺旋状に取り囲む構造となっている。パイプは温度を制御するための流体を通すためのものである。あらかじめ温度を調整した流体をパイプに流し、装置全体およびプラズマ化するガスを加熱・冷却しておき、そのうえで装置内に放電を起こすことでプラズマを発生させる。プラズマは図2に示すように、装置に開けられた直径1 mmの穴からジェット状に噴出する構造となっている。

                   図1 新装置の内部構造と外観
 

                図2 低温に制御した大気圧プラズマを氷に照射
 

【温度制御性能の評価】
 温度制御流体としてエタノールと水の混合液体を用いて、プラズマ温度の制御性能評価を行った。温度制御流体をあらかじめ-30~95℃の範囲で調整した条件でプラズマを生成させ、プラズマ発生部から2 mm離れた位置の温度を熱電対によって測定した。その結果、3℃から108℃まで温度を制御しながらプラズマを生成することに成功した。今回の装置ではエタノール水溶液を温度制御流体として用いたが、例えば-196℃の液体窒素を用いる事で零下のプラズマを生成する事もでき、逆にヒーターでガスを加熱することで100℃以上のプラズマを生成する事も可能である。さらに、プラズマの温度を測定して、温度制御流体の温度をフィードバック制御することで、精密な温度コントロールを実現できる(図3)。 

                 図3 生成されるプラズマの温度の比較

【低温プラズマの殺菌処理への応用】
 開発した低温プラズマ発生装置を用いて、酸素、二酸化炭素、窒素、アルゴンガスのプラズマを生成し、殺菌効果の評価を行った。プラズマ中で発生する化学活性種として一重項酸素の発生量を評価したところ、二酸化炭素プラズマ中で最も一重項酸素が得られることがわかった。また、プラズマ温度によっても生成する一重項酸素量が変化することが明らかとなった(図4)。

          図4 活性種(一重項酸素)の生成にプラズマのガス温度が与える影響

 

 さらに、黄色ブドウ球菌を含む懸濁液に二酸化炭素プラズマを印加したところ、温度上昇に伴って殺菌効果が大きく向上することを確認した(図5)。90℃に加熱したガスで処理するだけでは菌数の減少が緩やかであることから、プラズマ発生に伴う活性種が殺菌に寄与していると考えられる。

           図 5 二酸化炭素および窒素プラズマのガス温度と殺菌効果の関係
 
 以上より、プラズマ化するガス種と温度を適切に選択することで、殺菌効果を向上できることが明らかとなった。この結果は、プラズマ中で生成される活性種の種類と数が変化したことに起因していると考えられる。したがって、殺菌以外の処理、例えば各種材料の表面処理、ウイルス不活化、止血処理などにおいても、プラズマのガス種や温度を変えることで処理効果を向上させることができると考えられる。
 
●今後の展望
 開発した本装置では、処理に最適な温度の、各種ガスの大気圧プラズマを生成できる。従来のプラズマ装置では照射が容易ではなかった生体や低融点材料へのプラズマ照射が実現できる。例えば、ヒトの皮膚には36℃、動物よりも熱に弱い植物には20℃、融点が120℃前後のポリエチレンには100℃に制御した、様々なガス種のプラズマを印加する事が可能となった。逆に高温のプラズマを生成することで、樹脂の表面処理による接着性の向上などにも威力を発揮すると考えている。また、それぞれの処理に適したガス種のプラズマを利用する事で、低温のプラズマでも高い処理効果を得られると考えている。

【用語説明】
(1)プラズマ:自由に運動する正・負の荷電粒子が共存して電気的中性になっている物質の状態をいう。広義には固体物質もプラズマと見なすことができるが、狭義には気体状態の分子・原子に熱や電気エネルギーが加えられ陽イオンと電子に分かれたものを指す。10,000℃以上の高温状態をつくることができることから廃棄物処理や核融合への応用研究が進められてきたが、近年、大気圧下で数十℃というマイルドな環境でのプラズマ生成例が報告されはじめている。
(2)3D金属プリンタ:3次元モデルをもとに、金属材料を積層して物体を製造する装置。本研究ではアルミニウムとシリコンの合金粉末を素材として、40 μm厚の層を積み重ねて装置を造形した。
(3)活性種:反応性の高い状態にある原子、分子、イオン、ラジカルなどを指す。プラズマ状態では、加速された電子衝突による原子や分子の解離・励起によりラジカルや励起種が発生する。

【論文情報1】
掲載誌:Applied Sciences
論文タイトル:Plasma Gas Temperature Control Performance of Metal 3D-Printed Multi-Gas Temperature-Controllable Plasma Jet
(金属の3Dプリンタで作成した、マルチガス温度制御プラズマジェットのプラズマガス温度制御性能)
著者:Yuma Suenaga, Toshihiro Takamatsu, Toshiki Aizawa, Shohei Moriya, Yuriko Matsumura, Atsuo Iwasawa and Akitoshi Okino
DOI:10.3390/app112411686

【論文情報2】
掲載誌:Applied Sciences
論文タイトル:Influence of Controlling Plasma Gas Species and Temperature on Reactive Species and Bactericidal Effect of the Plasma
(プラズマのガス種と温度が、プラズマの活性種と殺菌効果に及ぼす影響)
著者:Yuma Suenaga, Toshihiro Takamatsu, Toshiki Aizawa, Shohei Moriya, Yuriko Matsumura, Atsuo Iwasawa and Akitoshi OkinoDOI:10.3390/app112411674

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