100度台でCO2をCOへ転換可能に

100度台で二酸化炭素を一酸化炭素に転換する新材料とプロセスを発見

熱のロスを大幅に抑制しながら余剰な再生可能エネルギーによる再資源化が可能に

発表のポイント

  • 2050年カーボンニュートラル実現に向けて、化石資源利用の削減と二酸化炭素排出抑制が強く期待されている。
  • 従来700度以上が必要だった二酸化炭素から一酸化炭素への化学的転換を100度台という低温で実現可能にする新しい材料とプロセスを明らかにした。
  • 本技術により、熱のロスを大幅に抑制しながら、再生可能エネルギーが余っているときに必要に応じて二酸化炭素を再資源化するプロセスが実現できる。

早稲田大学理工学術院の関根 泰(せきね やすし)教授らの研究グループは、従来700度以上が必要だった二酸化炭素から一酸化炭素※1への化学的転換を100度台という低温で実現可能にする新しい材料とプロセスを明らかにしました。

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、化石資源利用の削減と二酸化炭素排出抑制が強く期待されています。このような中で、回収した二酸化炭素を原料として再生可能エネルギー由来の水素を利用して化学品などを作り出すことができれば、二酸化炭素を循環利用することになり、化石資源消費を減らすことができます。本技術により、熱のロスを大幅に抑制しながら、再生可能エネルギーが余っているときに必要に応じて二酸化炭素を再資源化するプロセスが実現できます。

本研究成果は、2022年11月29日(現地時間)にイギリス王立化学会の『EES Catalysis』のオンライン版で公開されました。

論文名:Non-conventional low-temperature reverse water–gas shift reaction over highly dispersed Ru catalysts in an electric field
DOI:10.1039/D2EY00004K

(1)これまでの研究で分かっていたこと

回収した二酸化炭素を原料として、再生可能エネルギー由来の水素を反応させて化学品の原料である一酸化炭素を作る反応は、以下の式で表され、逆水性ガスシフト反応※2と呼ばれるよく知られた反応です。
CO2+H2→CO+H2O

一見簡単そうに見えるこの反応ですが、吸熱反応であるため高い温度を必要とし、従来は700度以上の温度域で触媒反応により実施されてきました。この際の高い温度がネックとなり、オンデマンドで再生可能エネルギーを利用しての駆動は難しいものでした。

(2)今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

このような中、研究グループはこの逆水性ガスシフトを150度程度(=423 K程度)の低温で高い反応率・高い選択性ですすめる新しい技術を検討してきました。外部電場を印加した触媒反応がこの目的を実現しうることを見出し、低温でより高い性能を発現しうる触媒ならびにプロセスを探索してきた結果、ルテニウム金属微粒子をチタン酸ジルコニウムという安定な酸化物に担持した固体触媒が、本プロセスに非常に有効なことを見出しました。

(3)そのために新しく開発した手法

外部から直流電場を印加し、酸化物表面イオニクスを誘起することによって、低温でも反応が能動的に進行することを見出しました。その際の触媒の状態を、各種オペランド分光※3分析等によって明らかにすることができました。この結果、下の図に示すような新しい反応メカニズムで本反応が進行していることを見出すことができました。

(4)研究の波及効果や社会的影響

従来700度以上が必要だった二酸化炭素から一酸化炭素への化学的転換を100度台で実現可能にした本技術は、その後に続く一酸化炭素を用いた各種有機合成反応の温度と温度域が近いため、総合的な熱のロスを大幅に抑えることが可能になり、またオンデマンドで駆動することが期待できます。これにより、再生可能エネルギーが余っているときに必要に応じて二酸化炭素を再資源化するプロセスが実現できます。

(5)今後の課題

大学でのラボ試験による結果を基に、より大型のプロセスへとスケールを上げていくことが期待されます。

(6)研究者のコメント

逆水性ガスシフトは、化学式が簡単に見える反応であり、かつ化学原料の基軸をなす一酸化炭素を作る重要な反応でありながら、高い温度を必要とする難しい反応と言われてきました。本技術によって、100度台で容易に本反応を進めることができるようになったことで、回収二酸化炭素を利用したオンデマンド化学品合成の可能性が拓かれたと思います。本技術を民間企業などとの協力によって素晴らしいものに仕上げていきたいと思っております。

(7)用語解説

※1 一酸化炭素
COと書くことができる分子。あらゆる化学品合成の原料となりうる非常に重要な分子である。一酸化炭素を原料として、各種燃料や化学品を作り出すことができる。

※2 逆水性ガスシフト
二酸化炭素と水素を反応させて一酸化炭素を作る反応。42 kJ/mol程度の吸熱反応であるため、平衡の制約から高温を必要とする。

※3 オペランド分光
固体触媒などの作動している環境で、その表面などを生け捕りにして観察すること。作動状態の触媒上で何が起こっているかを見ることができる手法である。

(8)論文情報

雑誌名:EES Catalysis (EES=Energy Environmental Science)
論文名:Non-conventional low-temperature reverse water–gas shift reaction over highly dispersed Ru catalysts in an electric field
執筆者名(所属機関名):Ryota Yamano(早稲田大学), Shuhei Ogo(高知大学), Naoya Nakano(早稲田大学), Takuma Higo(早稲田大学), Yasushi Sekine*(早稲田大学)
掲載日(現地時間):2022年11月29日
掲載URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/ey/d2ey00004k
DOI:10.1039/D2EY00004K

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