地域と“よそ者”がトップブランドを育て、日本の林業を底上げする 古谷誠章研究室・奈良プロジェクト

Pickup Story ともに地域を育てる

研究、ボランティアプロジェクト、サークル活動──学内のさまざまな団体が取り組んでいる地域連携事例をピックアップし、携わる人の思いに迫りました。

02 地域と“ よそ者”がトップブランドを育て、日本の林業を底上げする

Project name: 理工学術院創造理工学研究科 古谷誠章研究室・奈良プロジェクト

理工学術院教授 古谷誠章

奈良県南部の吉野郡に、500年作り続けられている木材「吉野材」がある。吉野材は丈夫で見た目も美しく、国産の材木としては最高級品だ。その吉野材を支える林業や製材所などの周辺産業が、近年の木造建築の減少や価格競争から瀕死の危機に陥っている。「肉に例えれば松阪牛クラスの、木材のトップブランドがなぜ売れないのか」建築デザインを専門とする古谷誠章教授は、2010年に奈良県から林業再生の依頼を受け、建築デザインによる吉野材の活用促進をテーマに奈良プロジェクトを始めた。

木造建築や木質の研究は、古谷教授の研究テーマのひとつ。林業衰退を食い止めるには「地域の木を地域の技術を使って地域に生かす地産地消がカギ」という。吉野材に関しても、研究室では建築デザインの提案を通して地産地消を促そうと考え始めた。「高級すぎるイメージの吉野材が多くの人に親しまれるには、デザインだけではなく、違う接点も必要だと感じていました」。デザイン以外のアプローチを求め、学生とともに吉野郡を訪れると、目に留まったのは吉野材が作られてきた背景。節が少なくまっすぐで、年輪の密度も適度な吉野材は、酒樽に最適な木材として作られてきた。育成には手間をかけており、苗木を通常の木よりも密集させることで成長を妨げ、20年ごとに間伐してゆっくり育てる。すると、数十年で目の詰まったまっすぐな木材が育つ。「つまり、おいしいお酒を飲むために時間と手間をかけてきた。話を聞いて、私は吉野材をすっかり気に入ってしまいました」。研究室では建築デザインのほか「吉野材の持つストーリーを消費者や建築関係者に伝え、値段以上の価値を感じてもらおう」と、吉野林業の見学ツアーやイベントを企画。昨年夏には、東京・お台場で数万人規模の展示会「ハウスビジョン2016」にも参加し、首都圏でも「吉野材は値段以上に魅力ある木材だ」と注目を集めた。

東京から来た研究室メンバーは、現地から見れば「外部の人」。あえて外から地方の課題を考える意義について、古谷教授は「地域の人だけで地域の問題に向き合うばかりでは、起死回生の一手は出ない。距離のあるよそ者、学生たちのような若者、しがらみなく発言できる人の『よそ者、若者、ばか者』の力を借りることで、新しい考えが生まれる」という。吉野では、地元でも使われないほど吉野材の消費が落ち込んだことで、林業と周辺産業が連鎖して衰退している。

古谷研究室の新しい風が吹き込むことで、地元から少しずつだが木造建築への意識が変わり始めた。プロジェクトは2年限りとされていたが、その後も奈良県から「プロジェクトを継続してほしい」と頼まれた。

奈良の評判を聞きつけ、研究室には他地域からも「林業再生に協力してほしい」と依頼が舞い込む。日本全国が、地場の林業の衰退問題を抱えている証拠だ。それだけに、古谷教授は使命を持ってプロジェクトに取り組んでいる。「まずはトップブランドである吉野材の認知度を上げることが目標。いずれは、木材を身近に取り入れる伝統を日本が取り戻せたら」。ひとつの木材を通して、日本の林業の未来と真剣に向き合っている。

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