取組概要
サービスロボットが人とともに生活するためには、ロボット自身が周辺の環境を認識し、同じ空間に存在する人の状態を理解する必要がある。本研究では、ロボットが認識すべき周辺環境の一つとして、歩行者などの移動物体が、今から先どのような軌跡で移動するのかを予測する手法に焦点をあて、研究を進めた。
人間は、人混みの中でも相手の未来の動きをある程度予測することで、お互いの衝突を回避している。ロボットにも同じような予測能力をプログラムとして与えることができれば、人との衝突を回避したり、先回りしたサービスの提供が可能になる。本研究では、機械学習(人工知能の一種)により様々な人の移動軌跡を学習し、移動経路として人の未来の動きを予測する手法を考案した。このとき、学習のためには事前に大量のデータ(この場合は歩行軌跡データ)を収集しておく必要があるが、公共空間等で利用されるサービスロボットでは、このデータの取得が難しい。また、空間側にセンサー等を設置してデータを収集することも通常困難である。そのため、適切に加工した既存のデータセット(他の環境で事前に取得されたデータ)を用いて学習を行った上で、ロボットがリアルタイムで観測するデータを学習したプログラムの形式に合わせることで、ロボットが取得したデータのみを用いて経路予測を行う手法を開発した。
成果
これまで、ロボットの身体や動作機構を実現するためのハードウェアについては共同研究先と協力しながら研究を進めてきたが、それら人と共存するいくつかの実ロボットに本研究成果を応用した。(博物館の受付にロボットを設置し、入口への入り方から来場者の分岐方向を予測して、来場者への挨拶内容を変えるシステムや、人に付いて移動する追従ロボットが人を見失ったときにフォローし直す仕組みなど)
サービスロボットの小型化・低価格化により、今後、ロボットは急速に人々の日常生活の場に入り込んでくると考えられる。本研究では、人の存在を前提とした作業空間におけるロボットのモビリティを対象に、ロボットが人間社会と共存するために必要な仕組みとして、経路予測手法を提案した。これらの仕組みが広まることで、移動ロボットを公共施設内での構内誘導、店舗案内、買い物支援などの様々なサービスに展開することが可能になる。本研究の成果により、人・ロボット共存社会が実現することを期待したい。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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