取組概要
地球温暖化によって、過去から現在にかけて強い雨が増加してきていることが世界の多くの地域で確認されている。しかし、このような雨の変化によって河川の洪水もすでに変化しつつあるかについては、まだ十分な証拠が得られておらず、明らかにする必要がある。
河川の流量は、雨や気温などにくらべて、長期間での観測データが得られる地域が少ない。そのため、たとえば10年に1度生じるような大きな洪水が増えているのか減っているのかを調べることが、特にアジアなどの途上国において困難であった。そこで、できる限りの河川流量の観測データの収集と、コンピューターシミュレーションに観測された雨などを入力して作成した過去の長期間の河川流量データ、数百万枚の衛星画像の解析による河川の氾濫の情報などから、世界各地における過去の洪水の変化傾向を調査した。また、気候モデルを用いて実際の気候を模した大量の実験を用いて、過去の地球温暖化が、実際に過去に発生した洪水の生じやすさを変えていたかどうかを調べた。
成果
アジアやヨーロッパ、南アメリカなどの地域では、地球温暖化によって、過去の強い雨による洪水の生じやすさが増えていることが確認された。また、雪が融けることによる春の洪水については、地球温暖化によって生じやすさが減少している場所も見られた。様々なデータから得られた世界各地の過去の洪水の増減傾向は、地球温暖化による洪水の生じやすさへの増減傾向と一致しているところもあれば、そうでないところもあり、過去の地球温暖化のシグナルがまだ明確には見られていないところも多数存在した。このように、地球温暖化を想定して洪水の具体的な対策を立てる際に、重要な科学的知見が得られた。
過去の地球温暖化の影響を分析することは、地球温暖化の対策を考えるうえで将来の予測と共に重要であり、IPCCなどの国際的な温暖化に関する報告書においても特に着目されている研究分野である。今後は、本研究で得られた成果の不確実性をさらに減らすため、世界的な共同研究を通じてより多くの気候モデルによる多数の実験を行う予定である。また、現在はコンピューター資源の制約からある程度大きい河川を対象とした実験を行っているが、日本の河川など、より細かい時空間スケールを対象とした同様の研究を行うことで、さらに多くの地域に応用できる知見を得ることを目指している。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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