取組概要
古代エジプト歴史学と工学・理学などの研究者が協力し、古代エジプトで王墓の副葬品などとして利用されたガラス工芸「ファイアンス」や金属加工品の製造技術解明に取り組んでいる。
東海大学が所蔵する「古代エジプト及び中近東コレクション」に収められている陶磁器(ファイアンス)や金属加工品を、本学の高度分析装置で計測し、理工系教員が有する知見と歴史学の研究成果を融合させて読み解くことで、数千年の歴史の中で失われた技術を再現する。本研究はこのコレクションを所蔵すると同時に、高度な分析装置を利用できる環境があるからこそできる本学独自の研究である。
成果
これまでの研究によって、ファイアンスの再現に世界で初めて成功した。山花准教授が古代エジプトで使用できた材料や文献情報を提供。秋山教授の研究室で遺物の組成を分析し、成分物質の特性などをもとに技術を再現した。研究成果は学会でも高い注目を集めただけでなく、アクセサリーやタイルに使用できる耐熱性・耐久性の高い新素材として、素材メーカーなどからも技術相談を受けている。また同グループではこのほかにも、同じく製造技術が不明だった「純硫黄製ビース」の再現にも成功している。さらに、宮澤教授のグループでは、金属を熱処理によって接合する冶金技術(ろう付け)を使った金属加工品の技術再現に取り組んでいる。これまでの研究によって、長く謎とされてきた溶接炉の再現に成功。金属同士の接着剤の役割を果たす「ろう材」の組成なども明らかになってきている。また、葛巻教授はごくわずかな試料で組成を分析できる独自技術「マイクロサンプリング法」を使ってコレクション中の金属器を分析。金属加工技術がそれほど高くなかったといわれてきた時代の遺物が、実は高度な技術によって作られていたことを明らかにした。そのほか、アメリカのブリガム・ヤング大学の研究者と共同で、パピルス文書に記された南アラビア語碑文の解明に向けた研究も展開している。
ガラス工芸の研究に関しては、現在ファイアンスよりさらに古い時代に用いられた施釉凍石を使った工芸品の技術の再現に取り組んでいる。この研究ではJohannes Gutenberg Universitatの研究者とも協力している。また金属加工品については、今年度からエジプトのEgyptian Museumとも国際連携型の共同研究を展開することになっている。現在世界中で活用されている技術の源流をなす古代エジプトの技術解明を通して、研究を通じた国際連携の深化に貢献するとともに、新たな技術の活用法や新素材の開発の道を探っていきたいと考えている。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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