取組概要
超流動ヘリウムという特殊な低温液体に原子を導入し、原子の詳細な状態を調べることが得意なレーザー分光の手法を用いて精密な測定を行う。これにより加速器で生成される天然に存在しない原子種の核構造や、周囲のヘリウムが原子に及ぼす微視的な影響を研究する。
液体のヘリウムが2.17K以下の極低温状態になると、超流動ヘリウムと呼ばれる粘性が無く、透明で泡の立たない特異な状態になる。ここに原子を加速器のビームラインなどを用いて導入すると、原子としては長い時間スケールである1秒以上その場に滞在することができる。この原子にレーザー光を照射すると、それぞれの原子種に特有の輝線スペクトルに対応する波長の光を吸収放出するので、導入された原子さらには原子を構成する原子核の状態を詳細に調べることが可能になる。通常、液体媒質中に導入された原子や分子は、周囲の媒質から大きな影響を受けるため、精密なレーザー分光には向かないとされていたが、研究者代表者らのグループはレーザー光を含む複数の電磁波を同時に照射することで、精密な計測を可能にした。超流動ヘリウムxレーザー光x加速器の組合せという、他に例の無いユニークな研究として注目されている。本研究は、共同研究先の理化学研究所・高峰愛子研究員((兼)法政大学兼任講師)の協力を得ており、さらに法政大学松尾研究室の複数の女子学生・大学院生が参加している。物理系としては女性研究者(およびその卵)の比率がかなり高い研究グループ構成であるといえる。これらメンバーが、男性研究者、男子学生らとともに日々活発な議論を行いながら研究を進めている。
成果
本研究は、物理学および物理化学分野の基礎的な研究領域であることから、その成果物は主として査読付き学術英文誌への発表である。一連の成果を国内外の学会や著名な国際英文誌で発表している。また、研究代表者は女子中高生向けサイエンスサマーキャンプでレーザー光を使った研究を紹介するなど、女子学生の理系選択支援の活動も行っている。
本研究はレーザーを用いた原子物理学の基礎的な研究の範疇にあるが、超流動ヘリウムという特殊な環境下でも計測の精度が向上したことから、原子核の周囲の電子の挙動をより詳細に調べることが可能になってきた。今後は理論計算と照合することにより、電子物性や機能性材料研究へのインプット等も行えると期待している。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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