取組概要
近年では、第一子出産前後の就業継続率は 5 割を超え、出産を経ても就業を継続する女性の割合が上昇しています。一方で、職業は、立ち仕事や、重量物の運搬、物質への曝露、疲労等が母体への負担となり、児の生存をはじめとした妊娠の結果に影響を与える可能性があることが報告されています。
大阪医科薬科大学 医学部 社会・行動科学教室の鈴木有佳助教と本庄かおり教授は、東北学院大学 教養学部 人間科学科の仙田幸子教授との共同研究により、死産リスクの高い職業が存在することを明らかにしました。
【ポイント】
◆ 国の全数調査データを用いて母親の職種と出産時ならびに出生後の児の死亡との関連について明らかにした初めての疫学研究です。
◆ 母親の職業の種類によって死産リスクに違いがあり、特にサービス職では死産リスクが高いことを明らかにしました。
◆ 母親の職業の種類と出生後の児の死亡リスクには違いが認められませんでした。
5 年度分の人口動態職業・産業調査 (出生票、死産票)ならびに人口動態調査(死亡票)の調査票情報を用い、出産時の母親の職種による(1)妊娠 12 週以降出生までの児の死亡(自然死産)リスク、(2)出生から出生 1 年後までの児の死亡(新生児・乳児死亡)リスクについて解析しました。その結果、母親の職業の種類により死産リスクに差が認められました。出産時の母親の職種が管理・専門・技術と比較し、事務、販売、サービス、肉体労働では死産リスクが統計的に有意に高く、無職では有意に低いことが分かりました。特に、死産リスクが最も高いのはサービス職で、管理・専門・技術職の母親に比べて死産を経験した人の割合が 1.76 倍高いことが明らかになりました。
一方、新生児・乳児死亡リスクには有意な差が見られませんでした。さらに、有職者における死産の人口寄与危険割合(有職者における死産全体のうち、各職種に起因する死産の割合)を計算した結果、サービス職に起因する死産の割合はすべての職業の中で最も高いことが分かりました。また、事務職の死産リスクは管理・専門・技術職の次に低いことを明らかにしましたが、事務職に従事する人の割合が多いため、人口寄与危険割合はサービス職に次いで高い値を示しました。
本研究は、国の全数調査データ(約 530 万人)を用いて母親の職業の種類と出産時ならびに出生後の児の死亡との関連について明らかにした日本で初めての疫学研究です。しかし、説明変数として用いた出産時の母親の職種は、妊娠中の職業とは一致しない可能性があります。妊娠の経過が出産時の母親の職業を左右した可能性を否定できないことには留意が必要です。
本研究により、死産リスクの高い職業が存在することを明らかにしました。本研究の知見を踏まえて、母親の職業と妊娠・出産や児の健康についての研究が今後進展することを期待します。
成果
本研究により、職業の種類によって死産リスクに違いがあり、死産リスクの高い職業が存在することを明らかにしました。具体的なリスクの原因やその改善法を探る研究はこれからの課題ですが、本研究の知見はそうした職業的リスクの探索において重要な手掛かりを提供します。本研究の結果により、職場における母性保護の促進に向けた努力の必要性、ならびに妊婦検診時の母親の職業を考慮したアドバイスの可能性が示唆されました。