取組概要
システム理工学部赤木亮太准教授、同大学院修士課程東海林幹生氏、静岡産業大学(静岡県藤枝市/学長 鷲崎早雄)スポーツ科学部江間諒一准教授、エディス・コーワン大学(オーストラリア)野坂和則教授らは、運動による骨格筋(力こぶなど、私たちがイメージする筋肉の総称)の損傷程度を評価する指標として、運動1日後の最大随意等尺性収縮(MVIC)トルクの回復率が利用できる可能性を明らかにしました。
<背景>
多くの人が経験する通り、激しい運動やスポーツ活動をしてから1〜3日後に筋肉痛が生じます。筋肉痛は、骨格筋がその長さを伸ばしながら力を発揮するエキセントリック(伸張性)運動によって生じやすいことがわかっています。多くの場合、筋肉痛は自然に治まり、通常の生活を送ることができます。しかし、最悪の場合、放置しておくと身体に支障をきたすこともあり、運動後の症状の回復を予測する方法が求められています。
運動後に観察される筋力の低下度合いは筋損傷の大きさを示す指標のひとつですが、筋損傷だけでなく、神経筋の疲労など他の症状を反映することもあります。そのため、筋損傷とそれらの症状とを的確に区別する方法を見つける必要がありました。
<概要>
本研究では、芝浦工業大学赤木亮太准教授(責任著者)と当時修士学生の東海林幹生氏(筆頭著者)及び神田章裕氏、静岡産業大学江間諒一准教授(共同筆頭著者)、早稲田大学平田浩祐助教(当時芝浦工業大学ポスドク研究員)、エディス・コーワン大学(オーストラリア)の野坂和則教授からなる研究チームが、エキセントリック運動後の膝関節伸展筋群の損傷を評価するための方法を検討しました。研究チームは、若年男性28名の右脚の膝関節伸展筋群を対象に、筋力計を用いて、全力でのエキセントリック運動を合計100回(10回×10セット)実施しました。
運動前と運動後の複数回にわたり、各種変数を測定し、膝関節伸展筋群の損傷を予測するのに適した指標を調べました。この研究では、筋力計を用いて、運動後3日間のMVICトルクの変化を測定しました。その他、膝関節伸展筋群の剛性率(超音波せん断波エラストグラフィで測定した骨格筋の硬さ)や、膝関節伸展筋群を制御する神経を外部から刺激したときに生じるdoubletトルクなども調べました。doubletトルクを測定することで、随意的な動員度合いを数値化し、実験結果に神経筋疲労の影響があるかどうかを調べました。
成果
実験参加者は、運動直後から1日後のMVICトルクの回復率によって、2つの異なるグループに分類されました。そして、運動直後から1日後のMVICトルクの回復率は、その後の筋力変化の予測に使えることがわかりました。しかし、遅発性の筋肉痛の程度や骨格筋の硬さの変化の予測には使えませんでした。
限界はあるものの、MVICのトルク変化は、運動後の筋損傷の症状の有用な予測指標として活用できる可能性を示しました。
運動による骨格筋の損傷は、運動能力の低下はもちろんのこと、最悪の場合、身体障害を引き起こす可能性があります。そのため、骨格筋の損傷の程度を評価する方法を確立することで、休養やトレーニングの適切なタイミングを判断することに繋がることが期待されます。