取組概要
甲南大学先端生命工学研究所(FIBER)の髙橋俊太郎准教授と杉本直己教授らの研究グループは、ウイルス遺伝子の複製時に細胞内の化学的な環境が変化することで、遺伝子の変異が生じることを明らかにしました。
新型コロナウイルスをはじめ、ウイルスの変異株の出現が現在大きな問題となっています。変異は遺伝子である核酸(DNA や RNA)が、ポリメラーゼ酵素によって誤って複製されることで生じます。この複製反応はワトソンとクリックが 1953 年に発見した核酸の化学的相補性という基本原理に基づいて行われますが、変異が生じるメカニズムは未だ明らかになっていません。本研究では、ウイルス由来のポリメラーゼによる RNA の重合が溶液中の誘電率などの化学環境の変化によって変異が生じ易くなることを明らかにしました。さらに、一度変異が生じると、複製ミスが次々と生じる現象も見出しました。
成果
これらの結果は、溶液環境によってワトソンークリックの基本原理が必ずしも優先されず、異なる相互作用様式で核酸が複製され得ることを示すものです。本研究の知見は、ウイルス遺伝子が宿主細胞の中でどのように変異するかを理解する上で重要な手がかりとなると考えられます。
それにより、新型コロナウイルスの新たな変異株の発生の予測などの技術開発が期待されます。