取組概要
東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の沖野晃俊准教授、東京医療保健大学の松村有里子准教授、岩澤篤郎教授らの研究グループは、温度を精密に制御しながらプラズマ(用語1)を低温・大気圧下で発生させる新規装置を設計・開発した。今回開発した装置は、プラズマ化するガスと装置全体の温度を調整する液体が流れる流路を備えているのが特徴である。装置の構造は数値流体解析を用いて設計し、アルミニウム系材料を用いて3D金属プリンタ(用語2)により装置製作を行った。さらに、この装置で二酸化炭素、アルゴン、窒素、酸素をはじめ様々なガスでプラズマを生成できること、ならびにプラズマの温度を3~108℃の範囲でコントロールできることを実証した。また、プラズマの温度やガスの種類を変えると、プラズマ中で生成される活性種(用語3)や殺菌効果が大幅に変わることを明らかにした。
【用語説明】
(1)プラズマ:自由に運動する正・負の荷電粒子が共存して電気的中性になっている物質の状態をいう。広義には固体物質もプラズマと見なすことができるが、狭義には気体状態の分子・原子に熱や電気エネルギーが加えられ陽イオンと電子に分かれたものを指す。10,000℃以上の高温状態をつくることができることから廃棄物処理や核融合への応用研究が進められてきたが、近年、大気圧下で数十℃というマイルドな環境でのプラズマ生成例が報告されはじめている。
(2)3D金属プリンタ:3次元モデルをもとに、金属材料を積層して物体を製造する装置。本研究ではアルミニウムとシリコンの合金粉末を素材として、40 μm厚の層を積み重ねて装置を造形した。
(3)活性種:反応性の高い状態にある原子、分子、イオン、ラジカルなどを指す。プラズマ状態では、加速された電子衝突による原子や分子の解離・励起によりラジカルや励起種が発生する。
成果
この研究成果により、大気圧プラズマの応用範囲がさらに広がり、プラズマによる殺菌・ウイルス不活化や表面処理効果が向上する事が期待される。
開発した本装置では、処理に最適な温度の、各種ガスの大気圧プラズマを生成できる。従来のプラズマ装置では照射が容易ではなかった生体や低融点材料へのプラズマ照射が実現できる。例えば、ヒトの皮膚には36℃、動物よりも熱に弱い植物には20℃、融点が120℃前後のポリエチレンには100℃に制御した、様々なガス種のプラズマを印加する事が可能となった。逆に高温のプラズマを生成することで、樹脂の表面処理による接着性の向上などにも威力を発揮すると考えている。また、それぞれの処理に適したガス種のプラズマを利用する事で、低温のプラズマでも高い処理効果を得られると考えている。