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研究

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東邦大学

カエルが多い水田はどこにあるのか? 関東平野の水田に生息するカエル類の分布を鳴き声で推定

2022年11月28日

取組概要

東邦大学の柗島野枝博士研究員と長谷川雅美教授、国立環境研究所の西廣淳室長の研究グループは、関東平野全域を対象に、水田に生息するカエル類の生息地の分布をカエル類の鳴き声を指標に推定しました。関東平野では鳴き声を確認できたカエル類は5種と少ないものの、生息地の推定結果を地図上に示すことで、カエル類の生息地分布だけでなく水田環境の地域的な違いも表すことが出来ました。
 

成果

調査は、夜間に様々な水田環境からなる調査地点に行き、ICレコーダーでカエル類の声を録音するという方法で、関東平野の標高180m以下の200地点において、2018年5月と6月に各地点あたり月1回ずつ行いました。
この野外調査には研究者だけではなく一般の調査協力者も参加しました。鳴き声調査から、ニホンアマガエル、トウキョウダルマガエル、シュレーゲルアオガエル、ヌマガエル(西日本からの国内移入種)、ウシガエル(特定外来生物)の5種を検出できました。
ニホンアマガエル、トウキョウダルマガエル、シュレーゲルアオガエル、ヌマガエルの4種に対して、異なる空間スケールの環境要因(気候や地形、水田周辺の土地利用割合、水田の湛水時期や圃場整備割合など)と、各種の鳴き声のデータから得た「存在確率」または「生息数の相対的な多さ」との関係を解析しました。これらのカエル類は同じ水田で繁殖することは珍しくないのですが、影響を受ける要因は種によって異なっていました。
解析結果をもとに、関東平野全域における各種の存在確率と相対的な生息数の多さを地図上で示しました。存在確率と生息数の相対的な多さのパターンは、各種とも似た傾向を示しました。周囲に森林が多い水田環境を選好しやすいシュレーゲルアオガエルは平野の中央部に少なく、平野部の辺縁や丘陵地といった森林が多い地域に分布し、生息地内の水田環境の特徴(湛水時期)に影響を受けやすいトウキョウダルマガエルは主に平野の中央付近に分布すると言った違いが見られ、全体として種数や生息数の多さは関東平野の東側の方が多い傾向が見られました。
分布パターンを地図に重ねることは、どのようなところにカエル類が多いのかを示すとともに、広大な平野のどこに特徴的な、あるいは多様な生息環境を持つ水田があるのかということも示しています。地図化によって、地域的な傾向や水田の生物多様性において保全上重要な場所の把握に利用しやすくなると考えられます。関東平野ではカエル類の種数は少ないものの、特徴的な生態を持つ種(シュレーゲルアオガエル、トウキョウダルマガエル)の存在は、それらが生息する水田地域にはそれぞれが選好する環境の要素が含まれていることを示す指標となると考えられます。
水田は、人が管理する農地である以上、経済活動や地域の人口動態によって環境が変化しやすい場所です。そのような状況を踏まえた上で、水田を利用する湿地生物を保全する場合に、地域の水田環境がどのような特徴を持つか、あるいは、どこにどのような特徴を持つ水田域があるのかを知ることが重要です。これは、地域の生物相を理解したり、保全する場所の優先順位を考えたりする場合の基礎的な情報になると考えられます。この研究の特徴の1つは、「カエル類の鳴き声の録音」という、誰でもできる簡単な方法を用いたことです。これによって野外調査に専門家以外の方々の協力を得ることができました。カエル類は種によって鳴き声が異なるので、実際に捕まえたり姿を見たりしなくても声を聴くだけで種類が分かります。鳴き声を利用する調査方法自体は一般的ですが、広範囲の調査を短期間に実施したことで、関東平野の「カエル類の分布のスナップショット」を示すことができました。このスナップショットは、将来、関東平野の気候変動や環境変化によってカエル類の分布が変わった時の基礎情報になることが期待されます。また、このような調査方法は、地域的な生息環境の違いや移入種・絶滅危惧種の検出などの広域的なモニタリングにおいても有効であると考えられます。

関連リンク

https://www.toho-u.ac.jp/press/2022_index/2022110-1249.html