取組概要
慶應義塾大学文学部心理学研究室の梅田聡教授、キリンホールディングス株式会社R&D本部キリン中央研究所の研究グループは、熟成ホップ由来苦味酸の単回摂取が注意力を必要とする認知機能検査中の自律神経活動を調節し、注意力を向上させる機能があることを、健常成人を対象とした、ランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較の臨床試験で確認しました。今まで熟成ホップ由来苦味酸のメカニズムはヒトにおいては解明されていませんでしたが、本結果はその一端を解明する研究成果です。
ホップは古来より薬用ハーブとして知られ、多様な薬理作用が知られている植物です。本研究グループでは、これまでにホップに含まれるビール苦味成分であるイソα酸や、ホップを熟成することで生じる熟成ホップ由来苦味酸に、認知症予防効果や認知機能改善効果があることを報告してきました。また最近行われた健常な中高年者を対象にした臨床試験では、熟成ホップ由来苦味酸の継続的な摂取で記憶力や注意力が向上し、不安感が低減することを明らかにしました。しかしながら、熟成ホップ由来苦味酸のヒトにおける認知機能や精神機能改善のメカニズム検証はなされていませんでした。
成果
これまでの非臨床研究で熟成ホップ由来苦味酸が自律神経の一つである迷走神経を介して認知機能や精神機能を改善することが確認されていたため、本研究では、熟成ホップ由来苦味酸のヒトの自律神経活動への関与を検証するランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験を健常成人対象に実施しました。その結果、熟成ホップ由来苦味酸群では、プラセボ群と比較して、総自律神経活動が統計学的に有意に上昇することが確認され、実行機能・注意機能を評価する認知機能検査の成績が向上することが示されました。
現代の世の中では超高齢社会に伴う認知症患者の増加や、うつ病などの精神疾患患者の増加が社会課題となっています。今回の成果は、認知機能や精神機能の改善作用が臨床試験で報告されている熟成ホップ由来苦味酸の作用メカニズムの一端を解明することが出来ました。今後は脳の健康に関する社会課題解決に向けて、科学的エビデンスに基づいたソリューション開発が期待されます。
本研究の成果は、2022年12月17日に国際学術誌『Journal of Functional Foods』に掲載されました。