取組概要
慶應義塾大学医学部分子生物学教室の坂下陽彦助教、北野智大(大学院医学研究科博士課程4年)、石津大嗣専任講師ならびに塩見春彦教授らの研究グループは、ほ乳類のゲノム中に散在する太古のウイルス化石を標的とする多コピー遺伝子解析技術を開発し、7000万年以上前に感染したウイルスに由来し、マウスゲノム内で独自に進化したMERVLの機能欠損によって正常な個体発生に障害が生じることを明らかにしました。
成果
これまでに、体の全ての細胞へ分化できる性質(分化全能性)を持つ受精直後のマウス胚において、特異的に内在性レトロウイルスの一種であるMERVLが高発現していることが知られていました。しかしながら、ゲノム中に1000コピー以上存在するMERVLを標的として解析することの困難さにより、MERVLの発現は単なる「全能性を示すマーカー」に過ぎないと結論付けられ、その機能的意義の追求はこれまでほとんど行われてきませんでした。そこで本研究では、ゲノム上に散在するMERVLを効率よくターゲティングする多コピー遺伝子解析技術を開発し、マウスの個体発生にMERVLが必須の役割をもつことを明らかにしました。本成果は、生物種特異的なウイルス化石による宿主のゲノム制御という新たな観点から、複雑で多様性に富むほ乳類の個体発生の理解に貢献するものです。本研究成果は、2023年3月2日(米国東部標準時)に Nature Geneticsのオンライン版に掲載されました。