取組概要
慶應義塾大学大学院薬学研究科博士課程4年の田代渉、同大学薬学部の田口和明准教授、松元一明教授らの研究グループは、従来のpharmacokinetics/pharmacodynamics(PK/PD)評価法が適用できない難吸収性抗菌薬について、糞中動態に基づく新たなPK/PD評価法を構築しました。
Clostridioides difficile (C. difficile )は、世界において高い脅威度レベルに認定されている薬剤耐性菌です。C. difficile は下痢を主症状としてC. difficile 感染症(CDI)を引き起こします。各国のCDI診療ガイドラインでは、治療薬としてフィダキソマイシン(FDX)、バンコマイシン(VCM)が第一選択薬として位置付けられています。しかし、それらの用法用量は経験によるところが大きく科学的根拠に乏しいため、これらを選択しても治療に難渋したり、さらなる薬剤耐性菌の発現が懸念されたりしています。
成果
通常、抗菌薬の開発は血液中薬物濃度に基づいてPK/PD解析を実施し、治療薬ごとに最適なPK/PDパラメータとその目標値を決定して、感染症患者に対する用法用量が決定されますが、FDX及びVCMは消化管から吸収されず、直接腸管内のC. difficile に効果を発揮するため、これまでのPK/PD評価法では解析できませんでした。
本研究グループは糞中薬物濃度に基づき難吸収性抗菌薬のPK/PD解析手法を新たに構築し、難吸収性CDI治療薬であるFDX及びVCMのCDIを治療するための最適な糞中PK/PDパラメータとその目標値を決定しました。さらに、CDI患者においてFDXまたはVCMが標準量で投与された際の糞中薬物濃度と、得られたFDX及びVCMの目標糞中PK/PDパラメータ値を用いて、有効性が期待できるC. difficile の最小発育阻止濃度(MIC)、つまりbreakpoint MICを明らかにしました。breakpoint MIC は抗菌薬の働きを評価する指標の一つであり、CDI患者に抗菌薬を選択する際の有用な基礎資料となります。
本研究成果は、CDI患者における難吸収性抗菌薬の適正使用ならびに本手法を用いることによる科学的根拠に基づいた新規抗菌薬の開発促進に貢献することが期待されます。
本研究成果は2022年12月24日(中部欧州標準時)に国際学術誌『Clinical Microbiology and Infection』に掲載されました。