取組概要
銅酸化物の高温超伝導体では、反強磁性の絶縁体である母物質に正孔または電子キャリアを注入することで超伝導が発現しますが、大量にキャリアを注入すると超伝導が消失する原因はわかっていませんでした。
今回、上智大学理工学部機能創造理工学科の足立教授の研究グループは、東北大学大学院工学研究科、東北大学金属材料研究所、理化学研究所仁科加速器科学研究センター、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所、J-PARC センターとの共同研究で、大量に正孔を注入した銅酸化物で2 次元の強磁性ゆらぎを世界で初めて観測しました。これは、キャリアの注入とともに反強磁性から強磁性へと磁性状態が変化することを意味し、銅酸化物の磁性状態の全貌を明らかにしたものです。また、超伝導が大きく抑制された物質で強磁性ゆらぎが観測されたことから、強磁性ゆらぎが高温超伝導を阻害している可能性を示しています。本成果は、高温超伝導に対する強磁性ゆらぎの関わりを新たに示す重要な成果です。
本成果の詳細は、2018 年8 月1 日に米国物理学誌「Physical Review Letters」でオンライン公開されました。
詳細については、リンク先のプレスリリースをご覧ください。
成果
・反強磁性ゆらぎ(注1)が主役を担ってきた高温超伝導銅酸化物(注2)において、2次元の強磁性ゆらぎ(注3)を初めて観測。
・高温超伝導銅酸化物において、キャリアの注入とともに反強磁性から強磁性へと磁性状態が変化することを解明。
・強磁性ゆらぎが高温超伝導を阻害している可能性を提案。
用語解説
(注1)反強磁性ゆらぎ
電子には、自転にたとえられるスピンという極微の磁石のような性質があり、上向きと下向きの2つの状態をとります。隣り合った電子のスピンが互いに逆向きに整列した状態を反強磁性秩序状態といい、逆向きに整列した状態からスピンの向きが時間的に変動する状態を反強磁性ゆらぎ状態といいます。
(注2)高温超伝導銅酸化物
ある物質を冷やすと、ある温度(臨界温度)以下で、突然、電気抵抗がゼロになります。これを超伝導現象といいます。超伝導は1911年に発見されましたが、およそマイナス270℃まで冷やさなければなりませんでした。しかし、1986年に銅を含んだ酸化物で高温超伝導が発見され、臨界温度はおよそマイナス140℃にまで上がりました。高温超伝導の発現メカニズムが解明されれば、冷やす必要がない、室温で超伝導になる物質の発見に対して有力な知見が得られます。
(注3)強磁性ゆらぎ
隣り合った電子のスピンが互いに同じ向きに整列した状態を強磁性秩序状態といい、同じ向きに整列した状態からスピンの向きが時間的に変動する状態を強磁性ゆらぎ状態といいます。