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東京都

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取組内容

研究

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他大学

学習院大学

化学反応場としての生体膜の特性を分光法で評価する

2020年7月14日

取組概要

生化学反応の多くは、細胞内に存在する生体膜の中あるいは近傍で進行している。この生体膜は、リン脂質の二重膜によって形成されている。脂質二重膜は、水の中に浮く分子2層分の油のシートである。多くの化学反応は有機溶媒中や水中で起こるが、これらの「通常の」反応媒体と比べると脂質二重膜は特異である。水と油という言葉のとおり、水と油は正反対の化学的性質を持っているからである。さらに、実際の生体膜はさらに複雑で、「脂質ラフト」と呼ばれる不均一なドメイン構造を持つと考えられている。本研究の目的は、生体膜が化学反応の媒体としてどのような特性を持つかを解明することと、脂質ラフトを分光測定で検知することである。

脂質二重膜の粘性率および熱拡散定数を、自作のピコ秒時間分解蛍光分光計およびピコ秒時間分解ラマン分光計を用いてそれぞれ評価した。試料には、単一あるいは複数脂質から成るリポソーム単層脂質二重膜(直径50ナノメートルから1マイクロメートル)や脂質ナノディスク、および培養細胞の細胞膜を用いた。脂質二重膜の疎水部に粘性率あるいは熱拡散定数の測定のためのプローブとなる分子を封入して、そのプローブ分子のピコ秒時間分解蛍光スペクトルとピコ秒時間分解ラマンスペクトルを測定した。

成果

異なる組成をもつ多数の脂質二重膜および細胞膜の粘性率と熱拡散定数を推定した。粘性率と熱拡散定数はいずれも基本的な物性量であり、化学反応の速度や生成物の決定に関して大きな影響を与える。これらの基本的な物性量を測定できたことは、生体膜で進行する数々の重要な生化学反応の機構を理解するための基盤と得られたことを意味する。粘性率の測定結果は、細胞膜に粘性率が異なるナノドメインが複数存在することを強く示唆する。生体膜での脂質ラフトの検出に大きく近づけたといえる。

今後、生化学反応の機構を生体膜の基礎物性に基づいて定量的に議論することが可能になるだろう。脂質ラフトモデルを実験的に検証することで、生体膜の構造についての理解が飛躍的に進歩するだろう。


※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
詳細等は関連リンクをご覧ください。

関連リンク

https://www.shidairen.or.jp/topics_details/id=2822