取組概要
地球の磁気圏からブラックホールまで、宇宙のさまざまな天体で起きている高エネルギー現象の観測を通して、天体における物理機構を解明する。また、宇宙X線観測のための衛星搭載カメラを開発する。
筆者は、X線とよばれるエネルギーの高い光(電磁波)でさまざまな天体を観測している。太陽の表面温度は約6000℃で主に可視光を放っているが、X線を放つガスの場合はその数千倍、つまり数千万℃もの高温である。また高温ガス以外にも、電子が光速近くまで加速されるとX線を含む電磁波を放つ場合がある。このようにさまざまな物理過程で放射されるX線を精密に測定することで、天体の周辺や内部の様子がわかる。天体からのX線は地球の大気で吸収されてしまうため、観測するためには大気圏外にカメラを持っていく必要がある。そこで筆者は人工衛星搭載用のカメラ製作も行っている。現在、2022年初頭の打ち上げを目指してXRISM(X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission)衛星を開発している。XRISMはJAXAとNASAを中心として、国内外の大学が協力している計画である。筆者は、観測機器の一つであるCCDカメラ(図1)の電気系統主担当として、浜松ホトニクス社などと協力して宇宙X線観測用CCDを製作するとともに、カスタムICの開発を進めている。
成果
・ 我々がすむ天の川銀河の中心部には巨大ブラックホール(BH)が存在する。BHの近くにある「いて座C」領域から、中性鉄(電離していない状態の鉄)由来の強いX線放射を発見した。その強さと放射位置から、BHが今から300年ほど前には現在の百万倍の明るさであった、と考えられる結果を得た。
・ 宇宙でもっとも強い重力をもつ天体の一つである中性子星は、周りにあるガスを激しく飲み込み、その過程でX線を放つ。筆者は「IGR J16318-4848」とよばれる、中性子星を含む天体(図2)を観測し、天体周囲のガスの速度(秒速200km)を初めて高精度で測定することに成功した。
XRISM衛星(図3)は従来よりも10倍以上すぐれた分光性能を持つ。これにより、例えば超新星残骸の重元素組成比を測定して、超新星爆発の爆発機構を解明するなど、重要な新発見が期待される。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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