取組概要
我々の身の回りには不規則な振る舞いをする現象が多く存在する。例えば、気温や株価などの時系列としての振る舞いがその典型である。不規則であるが故にそれの将来の予測を行うのは困難である(株価の将来の予想が出来ればみんなハッピーであるがそれは難しいのは経験的に明らかである)。振る舞いを不規則にする大きな要因の一つは確率的要素の存在である。コイン投げを複数回行うなどの確率過程を考えるとコインの表裏の出現順序は不規則になることは明らかで、これが確率的不規則過程と呼ばれるものである。本研究の目的は確率的要素が原因で不規則な運動をするものをより規則的な運動へと変化させるための理論手法を開発することである。
確率的要素が原因となり不規則に運動するものをより規則的な運動へと制御する理論手法を構築する。そして、この手法の理論的正当性を数学的に示し、有用性をコンピューターを使用した数値実験により明らかにする。本手法は、確率的不規則性とは異なる不規則性の概念であるカオスの制御手法とも関連の深いものである。これにより、本手法が、確率的不規則運動の制御とカオス的不規則運動のそれとの橋渡しという大問題を解決する糸口となるかもしれない。
成果
本研究により、確率的な不規則現象をより規則的な運動へと制御するための手法が構築され、その正当性と有用性も合わせて議論された。具体的にはウィーナー過程(ものの拡散を記述する数学モデル)やそれをより複雑にした数学モデルにおける拡散現象に着目し、それらの拡散の度合いをかなり小さくすることが本研究で構築された制御手法を用いることで可能となった。
本研究は理論的な研究であり、これを現実に応用することが社会的に求められている。なぜならば、現実世界ではノイズがシステムのパフォーマンスを低下させるという現象が多く見られ、如何にノイズという不規則に変動するものの影響を小さくするかは大問題である。特にナノレベルの大きさの製品開発が現在盛んに行われているが、製品が小さいものであればあるほどノイズの影響を大きく受けるので問題は深刻である。本研究結果はノイズ除去に対しても有益であると考えられる。本理論をこのような問題を含んだ様々な現実問題に適用可能な形で修正、拡張していくことが今後の展望である。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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