取組概要
民間主導の宇宙開発の発展に向け、超小型宇宙機、地上局間の通信を理論上最高レベルの安全性で保護する技術を開発する
2019年5月、日本で初めて民間ロケットが高度100kmの宇宙空間に到達するなど、民間主導の宇宙開発が複数の組織で活発に推進されている。ロケットや衛星の開発を行う際、飛行の安全を確保することが大きな課題となる。平成30年11月に施行された「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」にも「重要なシステム等に関する信号の送受信については、妨害や乗っ取りの被害にあわないよう、適切な暗号化等の措置を講ずること。」との記述があり、安全の確保が要件となっている。特に民間事業者が宇宙開発に参入する時には、妥当なコストで高いレベルの安全性を達成することが重要となる。本研究は、前述の状況に鑑み、高いレベルの安全性と低コストを両立する地上局、超小型宇宙機(超小型ロケット、超小型衛星)間の通信方式の研究開発を行っている。本研究の特徴的な点は、情報理論的安全性を有する通信方式を開発する点にある。情報理論的安全性とは、無限の計算リソースを有する攻撃者に対して安全性を保証する理論上最高レベルの安全性である。情報理論的安全性の実現は理想ではあるが、その実現のために膨大な量の鍵が必要となることや、送受信者のデバイスに同一の鍵を配布することが困難であることから、民間ではほとんど利用が検討されずにきた。しかし、我々の検討の結果、超小型宇宙機と地上局間の通信時間は短いため、必要な量の鍵を民生の大容量ストレージに格納可能であること、飛行前に送受信者に鍵を配布することも容易であることが明らかとなり、超小型宇宙機と地上局との通信に関しては、情報理論的安全性が十分達成できる目処が立った。本研究では、超小型宇宙機と地上局との通信における脅威を詳細に分析するとともに、超小型宇宙機と地上局の間の通信に対する通信データの盗聴、及び偽造・改竄を防止する通信方式の設計と民生デバイスによる試験的な実装を行っている。
成果
現在までに、設計した通信方式をインターステラテクノロジズが開発する観測ロケットMOMOに搭載し、打ち上げ時の実験を通じて有効性の確認と課題の洗い出しを行っている。2度に渡る打ち上げ実験の結果、盗聴や偽造・改竄を防止する暗号技術の演算回路は正常に動作することが確認され、民生デバイスで最高レベルの安全性を達成可能であるという肯定的な結果が得られている。
今後は、方式の改良を行い装置の故障耐性を高めるとともに、得られた知見を積極的に公開し、宇宙開発を行う事業者に有益な情報を提供していく予定である。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
詳細等は関連リンクをご覧ください。