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研究

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京都産業大学

ダイコンの細胞質雄性不稔に対する稔性回復遺伝子の機能を解明

2021年6月22日

取組概要

生命科学部教授(研究当時)の山岸 博 現名誉教授らのグループが、アブラナ科作物の育種に最も広く使われている、ダイコンのオグラ型細胞質雄性不稔遺伝子(ミトコンドリアのorf138)に対する核の稔性回復遺伝子(Rfo)の機能を世界で初めて明らかにしました。

作物の品種改良では、「雑種強勢育種」が大変効果的です。この育種方法は、遺伝的に離れた系統間の雑種が極めて旺盛に生育する現象を利用するもので、とりわけ、キャベツ、ハクサイ、ダイコン、ナタネなどが含まれるアブラナ科の作物で雑種強勢の効果が顕著です。しかしこの方法を効率良く行うためには、親となる2つの系統の間で確実に雑種を得ることが必要です。そのため多くの作物で、細胞質雄性不稔という花粉を作ることができない性質が利用されています。この性質はミトコンドリアにある遺伝子が原因で起こりますが、植物の核には、雄性不稔遺伝子の発現をおさえて正常に花粉を作らせる遺伝子(稔性回復遺伝子)があります。アブラナ科の多くの作物では、ダイコンで発見されたオグラ型雄性不稔遺伝子(orf138)が世界的に利用されています。

山岸名誉教授ひきいる京都産業大学のグループは、2001年に、orf138の塩基配列にはType A~Iの9つのタイプがあることを見出しました。一方、2003年に別の研究グループにより、稔性回復遺伝子であるRfoが同定されました。この遺伝子は、35個のアミノ酸が17回繰り返してできるPPRタンパク質(ORF687)をコードしており、orf138遺伝子の翻訳またはそれ以降の段階で働いて、orf138の遺伝子発現を妨げるとされましたが、それ以上の正確な機能は不明のままでした。

山岸名誉教授のグループは、日本で市販されているダイコンの一部に、Rfoがあるにも関わらず雄性不稔のままの品種があることを見つけました。そこで、この品種を交雑して得た子孫の系統について、orf138のタイプや花粉ができるかどうかなど一連の観察を行ないました。その結果、普通はorf138の発現をおさえることができるRfoが、Type Hのorf138に対してだけは効果がないことを発見しました。

一方、共同研究を実施した京都大学の竹中 瑞樹 准教授の研究グループが、orf138のmRNAとORF687タンパク質の結合の強さを調べました。すると、ORF687は、Type Aのorf138のmRNAとはコード領域の中の17個のヌクレオチドと強く結合するのに対して、Type Hとの結合力は著しく落ちることが認められました。そして、このような結合力の差は、Type AとType Hの間のたった1個の塩基の違いが原因で生じていることがわかりました。

成果

これらの結果から、Rfoが作るORF687タンパク質は、orf138から転写されたmRNAのコード領域に強く結合することによって、それ以降の翻訳の進行を妨げるという機能が明らかになりました。この研究ではさらに、orf138のmRNAを、コード領域の途中で切断することによって花粉稔性を回復する、新しい遺伝子(Rfs)が存在することも明らかになりました。これらの発見は、細胞質雄性不稔に対する稔性回復遺伝子の機能を明らかにする意義を持つだけでなく、植物の進化における核とミトコンドリアの遺伝子の働き合いを解明する手がかりになります。現在、山岸名誉教授は、この成果をもとに、さらにRfs遺伝子の同定を試みています。

関連リンク

https://www.kyoto-su.ac.jp/news/2021_ls/20210611_400a_ronbun.html