取組概要
慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室の本田賢也教授(理化学研究所生命医科学研究センター消化管恒常性研究チーム チームリーダー兼任)を中心とする共同研究グループは、百寿者の便中には、isoalloLCA(イソアロリトコール酸)という胆汁酸が特異的に多いことを見いだし、その胆汁酸を合成できる腸内細菌株を同定しました。また、isoalloLCAがグラム陽性病原性細菌に対する強い抗菌活性をもつことを明らかにし、マウス実験でもその抗菌効果があることを突き止めました。
長生きの秘訣を探るため、本研究では国内の百寿者(平均 107 歳)から便サンプルを採取し、腸内細菌叢と代謝物の解析を行いました。その結果、若齢者(20-50 歳)と高齢者(80-90 歳)に比べ百寿者(100 歳以上)の腸管ではさまざまな菌種(Alistipes,Parabacteroides, Bacteroides, Clostridium, Methanobrevibacter 等)が増加していること、そして Ruminococcus gnavus や Eggerthella lenta 等の菌種が若齢者と百寿者で共通して多いことが分かりました。胆汁酸の代謝に関わる細菌の遺伝子群が百寿者で増加していることから、便中の胆汁酸を解析したところ、腸内細菌によって代謝される isoalloLCA という二次胆汁酸が顕著に増えていることを見いだしました。しかし、isoalloLCA を合成する腸内細菌や合成経路はこれまで報告されていませんでした。
そこで共同研究グループは、百寿者で特異的に多い isoalloLCA を合成する細菌株の同定、細菌による胆汁酸の合成経路の解明、さらには isoalloLCA がどのような働きがあるのかを明らかにするため研究を行いました。
成果
百寿者の腸内では isoalloLCA を合成する細菌が増加し isoalloLCA が豊富に存在しているためグラム陽性病原性細菌の排除が促進され、健康な腸内環境を維持できているのではないかと考えられました。百寿者から単離された isoalloLCA を合成する腸内細
菌株は、難治性感染症に対する新たな予防・治療に応用出来る可能性もあり、今回の成果は、ヒトにおける感染症に対する予防・治療法、そして健康長寿の秘訣の解明につながることが期待されます。