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慶應義塾大学

ヒトの神経突起伸長の新しいメカニズム解明・神経突起を伸長する化合物の発見-慢性期脊髄損傷治療へ応用目的での特許出願-

2022年4月6日

取組概要

慶應義塾大学医学部生理学教室の加瀬義高助教、佐藤月花(大学院医学研究科博士課程学生)、岡野雄士(医学部学生)、岡野栄之教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞から作製した神経細胞(ニューロン)において神経突起伸長を促進する新しいシグナル経路を解明しました。また、抗生物質を産生する細菌であるストレプトマイセス属が産生する化合物RK-682が今回発見したシグナル経路を促進し、ヒトのニューロンの神経突起を伸ばすことを発見しました。

神経突起の伸長メカニズムの研究は、これまでヒト以外のニューロン(マウス、ラット、ゼブラフィッシュなど)で行われてきましたが、本研究は、今後の慢性期脊髄損傷の再生治療への応用を見据えて、ヒトiPS細胞から作製したヒトのニューロンに着目して行いました。ヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞を移植しての脊髄損傷再生医療では、それら移植された細胞がニューロンへ分化した後に、宿主のニューロンへ神経突起をいかに伸ばせるのかが再生の重要なポイントとなります。

研究の結果、GADD45G/p38 MAPK/CDC25Bというシグナル経路が、神経突起の骨組みとなる微小管の重合を促進する酵素であるCRMP2に作用して神経突起を伸ばすことがわかりました。このGADD45Gという遺伝子は、ヒトの大脳の進化に重要な役割を果たしていることは知られていましたが、ヒトのニューロンにおける機能はわかっておらず、今回初めてニューロンにおける役割が解明されました。また、RK-682はこのシグナル経路のp38 MAPK/CDC25Bを活性化することで神経突起を伸ばすことがわかりました。

さらに、本グループは、これまでにヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞をγ-セクレターゼ阻害剤であるDAPTで処理した後に脊髄損傷部位に移植することにより、慢性期脊髄損傷が治療可能であることをマウスレベルで明らかにしてきましたが、γ-セクレターゼ阻害剤の中でもCompound 34がDAPTの10分の1の量で同等の効果を発揮することを発見しました。

成果

本研究成果は、2022年4月4日(米国東部標準時)に国際学術雑誌『iScience(Cell Press)』に掲載されました。また、これら発見を慢性期脊髄損傷に対するヒトiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞の移植治療に応用できる形での特許出願も行いました。今回の研究成果はヒトの大脳の進化に重要なGADD45Gのニューロンでの役割を初めて解明したという生物学的意義と、慢性期脊髄損傷治療への応用という、基礎研究での成果を実際の臨床につなぐ、トランスレーショナルリサーチとしての意義の両面を有するものです。

関連リンク

https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2022/4/5/28-122725/