取組概要
慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の牧英之教授と同電気情報工学科の田邉孝純教授らは、シリカから作製したトロイド共振器を用いることで、これまでで最小の発光線幅を有する発光を得ることに成功しました。本技術は、シリコンチップ上に作製した微小の共振器を用いた素子であることや、通信波長帯である1.55µm帯の狭線幅発光であることから、チップ上に集積した光回路や光通信用素子などの集積光デバイスへの応用が期待されます。
カーボンナノチューブは、光通信やシリコンフォトニクスで必要とされる通信波長帯で発光することに加えて、近年は、室温かつ通信波長帯での単一光子源が実現可能なことから、量子暗号などの光による量子情報技術への応用も期待されています。しかし、一般に、カーボンナノチューブの発光の線幅(半値幅)は、数十nm程度と広いことから、発光をそのまま利用した場合、波長分散の影響による通信帯域や伝送距離の低下を招いたり、波長多重化が困難になったりといった問題があり、光通信への応用は進んでいませんでした。
成果
今回、シリコンチップ上に形成したシリカトロイド共振器を用いて、共振器上にカーボンナノチューブをダイレクトに形成したところ、半値幅が74pmという超狭線幅の発光を得ることに成功しました。線幅を表すQ値としては、2万を超える値が得られており、これまで報告されてきたシリコンディスク共振器の最高Q値(約5千)を大きく超えて、これまでで最高のQ値のカーボンナノチューブ発光を観測することに成功しました。本技術を用いることにより、将来的には、光集積デバイスや光通信素子、量子情報素子など、さまざまなチップ上集積光デバイスへの応用が期待されます。
本研究成果は、2022年10月12日(日本時間)に米国化学会(ACS)のACS Applied Nano Materialsオンライン版で公開されました。