取組概要
応用化学科・永直文教授と北海道大学触媒科学研究所・中野環教授らの研究チームは、世界で初めて高分子によるウィア=フェラン構造の構築に成功しました。
ウィア=フェラン構造は、空間を等しい体積の多面体で充填する場合に最小の表面積となるユニークな立体構造であり、これまで有機物を用いて作製されたものはありませんでした。
ウィア=フェラン構造は、六角形2面と五角形12面を持つ十四面体と、五角形面を持つ十二面体の2種類のセルからなり、2つのセルの体積は等しくなっています。十四面体と十二面体のセルが3:1の割合で空間を充填するように配置されることにより、この構造が形成されます。この構造は、1993年にデニス・ウィア、ロバート・フェランによるシミュレーションにより発見され、空間充填のもっとも効率的な構造として100年以上も受け入れられてきたケルヴィン構造(切頂八面体)よりも境界面積が0.3%小さいことが分かりました。ウィア=フェラン構造は北京オリンピックの水泳競技場のモチーフにもなりましたが、現実に直接観察されるものとしては洗剤の泡とパラジウム・鉛合金しか知られていません。
成果
研究チームは、重合誘起相分離を用いてネットワークポリマーを合成することにより、ウィア=フェラン構造を構築しました。このポリマーの合成には、多官能(四官能)チオールと(二官能)ヘキサメチレンジイソシアネートという2つの汎用化合物(モノマー)の重付加反応を利用しました。この合成法は、多官能モノマーを「ジョイント分子」、ジョイント分子間を繋ぐ二官能モノマーを「リンカー分子」としてポリマーネットワークを形成するジョイント・リンカーコンセプトに基づくものです。研究チームは、トルエン中でトリエチルアミンを触媒として用いて種々の条件下でポリマーの合成を検討したところ、高モノマー濃度の反応において表面に六角形と五角形の面を持つ空間充填多面体粒子を形成することを見出しました。さらに、3次元走査型電子顕微鏡を用いて多面体構造を調べたところ、これがウィア=フェラン構造の多面体に相当することが分かりました。
今回の成果は、様々な材料への応用が可能であり、予想外の機能を持つ先端材料の開発に向けて、研究の新しい方向性を切り拓くものと期待されています。