取組概要
2024年8月29日(木)~30日(金)、黄檗宗眞福山寳林寺・TEMPLE STAY ZENSŌ(以下; ZENSŌ、群馬県邑楽郡)にて、キャリア教育プログラム『禅のおもてなし -寺泊を通した体験学習-』を実施しました。
成果
本プログラムは、本学キャリアデザイン科目「プロジェクト演習〈ホスピタリティとサービス〉」の2023年度履修生を対象に、現場での体験学習を通してライフ・キャリアにおける「真のおもてなし」を再認識することを目的としました。
講師の海野峻宏氏(寳林寺副住職/ ZENSŌオーナー/本学経済学部卒業生)による、事前学習(オンライン)を経て、初日は現地でのオリエンテーション、近隣フィールドスタディ、模擬チェックイン、講義「お寺でのおもてなしとその心得」の後、PBL形式の活動「ZENSŌ のアンバサダーとして、おもてなしや広報などの施策を自由に提案」に臨みました。翌日は朝のおつとめと坐禅の後、海野氏へのプレゼンテーションとディスカッション、全体総括の後に施設の清掃をして解散しました。
学生のコメント:塩原瑛理(文芸学部文化史学科2年)
私がこの体験学習を通して最も学んだのは「空間のホスピタリティ」である。事前講義を通して習得はしたものの、現地で体験することによりその重要性を実感した。例えば、ZENSŌでもてなすオリジナルのコーヒー、「喝」・「三味」・「洗心」(HIRAKU製)。HIRAKUのコンセプトは『コーヒー一杯が日々の「、」になりますように』である。私にとってコーヒーは眠気覚ましでしかなかった。ZENSŌでは手動式ミルで自ら豆を挽き、2つの手法でドリップする。コーヒーを嗜みながら、心を落ち着けてゆっくり時間と向き合うことができた。このようなZENSŌのこだわりは日本語・英語・中国語で丁寧に説明され、「それがなぜここに在るのか」、客側が意味づけをして感じとることができる。それこそが「空間のホスピタリティ」であろう。
ところで、私への最高のホスピタリティ、それは「庭の山椒」であった。初日の昼食は地元特産の鳥弁当を庭で食べた。皆で「いただきます」をした後に、副住職がおもむろに山椒の葉と実を採りに行き私たちの弁当の上にのせてくれた。生の山椒を初めて味わう、さり気なくささやかなホスピタリティに遭った。
そのサプライズをうけて、最終日のプレゼンテーションでは、「副住職とゲストがコミュニケーションする機会を偶発的に増やすこと」を提案した。
ZENSOにはホスピタリティが緻密にデザインされていて驚いたし、私が気づけていないホスピタリティもあったに違いない。その意味でホスピタリティは、もてなす側と受ける側の双方のセレンディピティが必要と学んだ。
学生のコメント:岸岡瑠香(文芸学部マスコミュニケーション学科2年)
お寺に馴染みのない私はこの体験学習を通して、朝のおつとめや坐禅などの「非日常」を体験した。その中で意識したのは、学習者目線と宿泊者目線の2つの目線で観察することであった。ZENSŌがどのような施設なのか、副住職にはどんな役割があるのか考察を重ねた。
観察を通して私たちが提案したことは、海野さんにとってSNSのハードルを低くする工夫であった。私は普段インターンシップでSNSの投稿をしている。それは依頼されたものを作成する既存の仕事であって、「ゼロイチ」ではない。体験学習では自らの五感を研ぎ澄ましクリエイティブさを発揮しながら、自由に動画を制作し、やりがいを感じとても楽しかった。2日間という限られた時間の中でも、ほんの少し成長を感じられた。
海野峻宏氏(寳林寺副住職/ ZENSŌオーナー/本学経済学部卒業生)のコメント
2023年1月に開業し、セレンディピティとマティキュラスを表現しながらお客様をお迎えしてきました。オープンに至った経緯やZENSŌのコンセプトを、滞在者にこれだけ詳細にお伝えしたのは初めてです。ZENSŌに込められた思いやホスピタリティの一端を学生に垣間見ていただくことができました。塩原さんが記したような「お客様の思い出となるきっかけ」は、寳林寺に張り続ける私自身のアンテナから創り出しています。
今回の体験学習では、学生より新たな視点、新たなアンテナの張り方を示唆いただき、私自身の学びとなりました。
仏教の教えの中には、慈悲、無我、僧団といったホスピタリティと深く結びついた概念があり、他者への思いやりや親切を大切にすることを、学生はこの体験学習を通して学ぶことができました。
キャリア教育プログラム『禅のおもてなし -寺泊を通した体験学習-』の概要
本プログラムのゴールは、禅の思想を通して真のおもてなしを体験的に学び、その成果を実践に繋げることである。前提科目「プロジェクト演習〈ホスピタリティとサービス〉」において学生は、ホスピタリティ(おもてなし、思いやり、優しさ、歓待といった意味合い)について専門家・実践家より学び、チーム活動を通してその理解を深めた。後続して本プログラムでは現場での体験をもとにおもてなしの具体案を練り提案を行う。
成城学園の創立者澤柳政太郎は若いころから仏教に親しみ、一宗一派に偏ることなく仏教界全体の発展と活動を支援し、大正大学の初代学長を務め「宗教と教育と世界平和」にも貢献した(新田2014、pp.198-204)。本講座では真のおもてなしを、禅の空間、その環境の中で追究していく。
正課科目『プロジェクト演習〈ホスピタリティとサービス〉』の概要」
本科目の目的は,学生が,キャリア形成における「無形の資産」の価値(身体的文化資本)をホスピタリティとサービスの視点から探り,自ら発揮することである。成城学園では建学の精神(育む人間像)として、次のように述べている。
創立者、澤柳政太郎は、正直、真面目という道徳を身につけ、個人の「天分」を熱心かつ旺盛に伸ばした結果、知性・心情ゆたかで意志強固な「独立独行」の社会人になることを願いました。フェイアプレイの精神を持ち、美的生活を心がける「教養ある紳士淑女」になることと同時に、変わりゆく世界の中で「独創力」を持った奮起する人間となることをさらに期待しました。
本科目では、ライフ・キャリア教育の中の、特に人格教育として、「ホスピタリティ」(おもてなし、思いやり、優しさ、歓待といった意味合い)について専門家・実践家より学び、自らも体現しながら、人としての在りようを追究していく(シラバスより抜粋・一部改編)。
このようなホスピタリティ教育は、教育理念を継承していくキャリア教育の一つと位置付け、2017年度よりキャリア教育に実装している。