取組概要
膜面やケーブルなど、極めて軽量で柔軟な素材を使い、地上では小さく折り畳んでおき、宇宙で大きく展開する構造物(ゴッサマー構造物)を宇宙で実現し、深宇宙探査や科学観測等にゴッサマー構造物を利用すること。
外力はほぼ全く作用しない宇宙空間において、ゴッサマー構造物の展開挙動を予測するのは困難と言われていたが、適切に予測できる解析手法を世界で初めて考案した。
成果
JAXAは、2010年に、ゴッサマー構造物の一つであるソーラーセイル(大型の薄膜を宇宙で展開し、薄膜に作用する太陽光の圧力により推進する宇宙機)を世界で初めて成功させた。このソーラーセイル「IKAROS」において、その展開運動の予測やそれに基づく設計に本研究を適用し、当時不可能と言われていた、14m四方の薄膜の展開を成功に導くとともに、軌道上データとの比較から、本研究による展開運動の予測が適切であったことが示された。IKAROSの運用はJAXAのブログ等で詳細に紹介されていたことや、マスコミにも取り上げてもらったこともあり、IKAROSの成功は、社会の注目を集め、特に、当時、小学生や中学生だった子供たちが宇宙工学を目指すきっかけとなった。また、それまで、ソーラーセイルの実現をほぼ断念していた米国や欧州も、IKAROSの成功を受け、研究を再加速することとなり、2010年代にはソーラーセイルに関する多くの研究がなされるに至っている。ただし、未だ、IKAROSを超えるミッションはどの国も実現していない。
地球以外で太陽系に生命が存在かどうかについては、研究者はもとより、多くの人々が高い関心を抱いており、最近では「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」の探査を行った。JAXAは現在、次の小惑星探査ミッション「OKEANOS」の検討をしている。OKEANOSはIKAROSの約10倍の面積の薄膜を展開する計画であり、本研究はOKEANOSの検討に用いられている。また、地球外生命体の探査については、太陽系外の惑星の観測も行われているが、より精密な観測のため、スターシェードと呼ばれる直径50~80m程度の大型の膜構造物を展開し、宇宙から系外惑星の直接撮像を行うことをNASAが提案している。そこで、現在、スターシェードの解析・設計に本研究を適用している。スターシェードが成功すれば世界初であり、地球外生命体の存在という、社会的に関心の高いテーマの解決に大きく近づく。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
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