取組概要
成虫期間が非常に短命な原始的有翅昆虫カゲロウ類でも大量発生が有名であり、新聞などのメディアにしばしば取り上げられる。正の走光性から橋上の照明に吹雪のように羽化個体が集まり、交通の妨害となる。また、死骸は道路上に雪のように積もり、自動車のスリップ事故を引き起こすこともある。カゲロウ類の大量発生を引き起こす原因は、一斉羽化といった同調性の非常に高い羽化様式にある。カゲロウ類の羽化シーズンは数週間程度で、羽化個体の寿命は非常に短い(数分から2-3日)。そのため、一日の中でも限られた数時間の間に一斉羽化が起こり、群飛・交尾飛翔することで大発生へと至る。このようなカゲロウ類の大量発生につながる一斉羽化はなぜ生じるのか、その適応的意義について追求する。
成果
カゲロウ類における一斉羽化・大量発生に関する研究としては、現在も生活史に焦点を絞った研究は蓄積されているが、Sweeney and Vannote(1982)以降、生態学的な適応意義に焦点を絞った研究は進んでいない。一斉羽化の適応意義は、交尾相手と捕食者に関する2つの仮説が常識として受け入れられてしまっている。本研究はこれまでの常識を覆す研究となることが期待される。また、この研究課題に対して、地理的単為生殖種オオシロカゲロウは非常に適した研究対象であると言えるが、このような事例と確立されたバックグラウンドは世界的に見ても本種のみであり、日本固有である。本研究の結果は、カゲロウ・水生昆虫学および河川生態学において新たな見解を与えることが期待されると共に、進化生物学の課題「両性生殖vs.単為生殖」に対しても大きなインパクトを与える独創性のある研究になる。
オオシロカゲロウが属するシロイロカゲロウ属は顕著な一斉羽化をし、大量発生に至ることもあるため、世界的に研究対象として注目され、カゲロウ類の中でもバックグラウンドとなる生態学的データが比較的多く蓄積されてきた。本種は地理的単為生殖生物の中でも地理的傾向なしにモザイク分布しており、世界的にも稀な例の一つである。同種でありながら系統によって繁殖タイプが異なり、かつ同一河川内で同所的に生息することを明らかにしてきている。さらに、両系統間で一斉羽化の時間帯をずらすといった事例は本種だけであり、本研究は非常に学術的独自性が高い。本研究では、カゲロウ類の一斉羽化はなぜ生じるのか、といった適応的意義について新たな解釈を得ることを目的とし、新たな仮説を打ち立てるものであり、新規・独創性を訴え得る。
※この取組は、提言・事例集『私立大学理工系分野の研究基盤の強化と向上-科学技術イノベーションの推進に向けて-』で紹介した研究事例です。
詳細等は関連リンクをご覧ください。