取組概要
慶應義塾大学医学部眼科学教室の根岸一乃教授、羽入田明子助教、米国Brigham and Women's HospitalのJae Hee Kang准教授、米国Icahn School of Medicine at Mount SinaiのLouis Pasquale主任教授らの研究グループは、世界最大規模の前向きコホート研究であるNurses’ Health Study、Health Professionals Follow-up Study、Nurses’Health Study IIの疫学データを用いて、約20万人を28年以上にわたって追跡した結果、長期間の飲酒行動により、落屑緑内障(落屑緑内障疑いを含む)の発症リスクが上昇する可能性を明らかにしました。
緑内障は、世界における不可逆的な失明の主要な原因疾患ですが、未だ眼圧を下げる以外に有効な予防・治療法が確立しておりません。米国では、300万人以上の患者がおり、緑内障による経済損失は年間約30億ドルにもおよびます。落屑緑内障は、落屑症候群に続発する緑内障で、従来、薬物治療では改善しにくく進行が速いことが知られています。落屑症候群は、異常な細胞外マトリクスの過剰産生と蓄積が眼内に認められることが知られており、様々な遺伝要因や環境要因が複雑に発症に寄与している可能性があります。
成果
本研究グループは、米国在住の40歳以上の医療従事者を対象に、2~4年毎に食習慣や生活習慣などの情報を自記式質問票により収集し、眼科診療録のデータと統合することで、落屑緑内障(落屑緑内障疑いを含む)の罹患率との関連を前向きに検討しました。その結果、エタノール換算で1日10g飲酒量が増えるごとに、落屑緑内障の罹患率が9%上昇することがわかりました。また、酒の種類別に検討したところ、同じ酒量であれば、ウィスキー、ワイン、ビールの順に落屑緑内障(落屑緑内障疑いを含む)のリスクが上昇することが分かりました。一方、赤ワインに関しては、リスクを低下させる傾向を認めました。本研究は、長期間の飲酒行動が眼疾患の発症に寄与する可能性を明らかにするとともに、落屑症候群の病態理解や予防の一助になることが期待されます。
本研究成果は、2022年8月27日(米国東部時間)に米国の国際学術誌Ophthalmologyのオンライン版に掲載されました。