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研究

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東邦大学

前頭側頭葉変性症の発症メカニズムを解明 ~ 神経発生期におけるVCP遺伝子の機能喪失が発症の原因となる ~

2025年1月8日

取組概要

■東邦大学理学部の曽根雅紀准教授の研究グループは、東京科学大学の岡澤均教授の研究グループおよびオランダ・マーストリヒト大学との共同研究で、ショウジョウバエモデルを用いた研究から、VCP遺伝子の変異によって生じる前頭側頭葉変性症の発症メカニズムを解明しました。この発見により、前頭側頭葉変性症の治療法開発の基礎となる知見が明らかにされました。

■本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C)および東京科学大学・難治疾患共同研究拠点などの支援のもとで行われたものです。

■前頭側頭葉変性症(前頭側頭型認知症)は、アルツハイマー病およびレビー小体型認知症に次ぐ有病率を示す認知症の原因疾患です。VCP(valosin-containing protein)遺伝子に変異が生じると遺伝性の前頭側頭葉変性症の原因となることが知られており、これまでに、東京科学大学の岡澤均教授の研究グループは、東邦大学の曽根准教授の研究グループなどとの共同研究によって、マウスモデルを用いた研究から、前頭側頭葉変性症胎児期のDNA損傷が数十年後の発症に影響を与えることを明らかにしてきました(Homma et al., Life Sci. Alliance 2021)。
今回、研究グループは、ショウジョウバエモデル(注1)を用いた研究によって、VCP遺伝子の生理的機能喪失によって引き起こされる、神経発生期における神経幹細胞の増殖異常が、神経変性症状の原因となっていることを明らかにしました。本研究によって明らかになった前頭側頭葉変性症の発症メカニズムは、今後の治療法開発に向けた基礎的知見となるものです。

成果

■VCP遺伝子にミスセンス変異(注2)が生じると、遺伝性の前頭側頭葉変性症の原因となることが知られていますが、変異が生じることで、VCP遺伝子から作られるVCPタンパク質の働き(生理的機能)にどのような変化が生じるのかが、これまでに十分に明らかになっていませんでした。VCPタンパク質は、細胞内のATPを分解してエネルギーを取り出す役割を持っています。変異型VCPは、試験管内で行った実験ではATP分解酵素としての活性が上昇していたため、変異が生じることによる酵素活性の上昇が疾患発症の原因ではないかと考えられてきました。

■本研究では、まず、ショウジョウバエにRNAi法(注3)を用いて、VCP相同遺伝子の発現量(VCPタンパク質の合成量)を低下させることにより、脳萎縮、個体死亡、複眼の形態異常などの神経変性疾患のショウジョウバエモデルにおいて見られる症状が観察されることを見出しました。このことから、これまでに考えられていたようなVCPタンパク質の酵素活性の上昇ではなく、VCPタンパク質の細胞内での働きが低下することが疾患発症の原因となっている可能性が考えられました。

■さらに、VCP遺伝子の発現量を低下させたショウジョウバエに遺伝子操作の手法を用いて正常なVCP遺伝子の発現量を増加させる実験を行ったところ、神経変性症状がほぼ正常に回復しました。つづいて、VCP遺伝子の発現量を低下させたショウジョウバエにおいて、疾患型の変異を持つVCP遺伝子の発現量を増加させたところ、神経変性症状が限定的にしか回復しませんでした。このことから、疾患型変異を有するVCPタンパク質は、生理的機能(本来細胞の中で果たしている役割)を喪失していることが証明されました。

■また、本研究においては、VCP遺伝子の発現量を低下させたショウジョウバエの表現型の詳しい観察などから、神経発生期(蛹期)における神経幹細胞の増殖異常が神経変性症状の原因となっていることも明らかになりました。

 以上の結果から、今後の前頭側頭葉変性症の治療法開発の基礎となることが明らかとなりました。

関連リンク

https://www.toho-u.ac.jp/press/2024_index/20241225-1437.html