取組概要
生命科学部先端生命科学科の横山 謙教授らのグループは、回転分子モーターであるV/A-ATPaseのスターター機構をクライオ電子顕微鏡で捉えることに成功し、ナノサイズの回転分子モーターの回転機構の全容解明へ繋がる知見が得られました。
私たちの体の中には、高速で回転しながら生命の燃料となる ATPを合成する分子モーター蛋白質があり、私達の日々の生活を支えています。
分子モーターである ATP合成酵素には ATP が結合する3つの触媒部位があり、すべての結合部位に ATP が結合した時に回転が連続的に起こります(定常状態)。しかし、ATPがない状態(基底状態)からどのようにATPが3つ結合する状態(定常状態)になるのかは、わかっていません。というのは、反応初期だけに現れる構造を捉えることが大変困難だからです。
今回、私達は、蛋白質などの非常に小さな分子を見ることができるクライオ電子顕微鏡を用い、回転分子モーターである V/A-ATPaseが活性化される様子をスナップショットとして見ることに成功しました。3つあるATP結合部位に順番にATPが結合し、結合したATPが軸タンパク質を 120˚回転させることで、最終的には3つのATP結合部位すべてに ATPが結合した構造になりました。また、ATPが1分子結合した状態の構造の寿命に比べ、ATPが2分子結合した構造の寿命が短いことが分かりました。このことは、2つの触媒部位の共同作業が 120˚回転に必要なことを示します。今回の成果により、回転分子モーター蛋白質の分子機構の理解が深まり、回転分子モーターの設計に役立つ情報を得ることができました。
成果
本研究により、基底状態にある回転分子モーターがATPの連続的な結合により定常状態へと移行する過程を解明することができました。
また、早い120˚回転には、開いた構造に結合した ATPと、閉じた部位に結合した ATPが加水分解する過程が必要であることが示されました。これは、以前我々が予想した3つの触媒部位のうちの2つの部位で起こる触媒過程の協同で軸の回転が起こるとした説を支持する結果になりました。このナノサイズで機能する分子機械の仕組みを理解することで、将来のナノマシーンの駆動部に応用できる人工分子モータータンパク質設計への応用が期待されます。